アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、最近のアメリカ経済の減速トレンドに反して強かった11月のアメリカ雇用統計にコメントしている。
強かった雇用統計
最近雇用統計が発表されたが、その数字は強かった。失業率は下がり、賃金の伸びは加速した。
賃金上昇は良いことなのだが、サービス業のインフレ抑制のためには時給の低下が必要となる。インフレの世界では経済が強いことが問題となる。
マクロ経済学者であるサマーズ氏は今回の雇用統計をどう捉えているのか。彼は次のようにコメントしている。
雇用統計は良い数字だった。少なくとも11月の時点では実体経済はまだかなり強いように見える。アメリカ経済が転覆しかけているという強い不安の一部は間違いなく否定された。
サマーズ氏はアメリカ経済の力強さが示されたことを喜んでいる。だが時給の伸びが加速したことはどうなのか。これまでインフレの脅威に警鐘を鳴らしてきたサマーズ氏の発言としてはやや意外である。
サマーズ氏は時給については次のようにコメントしている。
平均時給が前月比で予想よりやや強く0.4%上昇したことは、インフレに対する戦いに勝利宣言をするのが時期尚早だというわたしの見解を支持するものだ。
結局のところ、経済が強い限りインフレは強く、インフレを打倒しようとすれば経済を弱めるほかない。
だから強い雇用統計は好ましいか好ましくないかではなく、単に経済が弱まるまでの距離を示しているに過ぎない。インフレが高ければ、より長く引き締めをやらなければならないだけである。
だがサマーズ氏の見解は少し違うようである。彼は次のように述べている。
わたしは今回の数字をかなり好ましいものだと見ている。ソフトランディングを既定路線と考えたり、それに自信を持ったりするのは間違いだろうが、ソフトランディングの可能性は間違いなく高まった。
金融市場の反応
筆者の見解によれば、結局これはインフレと景気後退の綱引きに過ぎない。短期的にはその間を揺れ動くが、中央銀行がインフレ退治を目的とする限り、最終的には逆の側へと振れてゆく。
サマーズ氏もそれをある程度認める発言をしている。彼は次のように言っている。
Fed(連邦準備制度)は非常にややこしい問題に直面している。人々がインフレ抑制を見、もう利上げは必要ないと判断すると、長期金利が下がり、株式市場も上がる傾向があるため、既に行われていたはずの引き締めのいくらかを巻き戻してしまう。
高金利によってインフレが抑制されてくると、市場がそれを見込んで長期金利が下がってしまう。そしてそれが緩和になる。
最近長期金利はインフレへの楽観で下がっていたが、トレンドに反する経済統計でたまに高金利へと戻される。長期金利のチャートは次のように推移している。
金融市場はこうした相反する短期トレンドを繰り返しながら、長期的にはたどり着くべき場所にたどり着くだろう。
これに関してはジェフリー・ガンドラック氏の以下の発言が参考になるだろうか。
Fedは労働市場は弱まることを目指していると言っている。
それは高金利政策の結果ではない。それは目標だ。
だが問題はやはり景気後退のタイミングである。それに関してはガンドラック氏の予想は分が悪そうだ。