共和党の大統領選候補ドナルド・トランプ氏がCNBCのインタビュー(原文英語)にてアメリカの金融政策を担うFed(連邦準備制度)を攻撃している。
Fedのイエレン議長が低金利を維持しているのはオバマ大統領の在職中に米国株バブルを崩壊させないためだという趣旨だが、彼の論点よりも興味深いのは金融市場のバブルを認識している政治家がそのバブルのほとんど頂点で政権を担う可能性があるということである。先ずはトランプ氏の発言を見てゆこう。
ゼロ金利が続いているのはイエレン議長が政治的だからで、彼女はオバマが望む金融政策を行っている。そうあるべきではないが、それが低金利の理由だ。金利が上がれば株式市場は多分かなり下落することになる。金融市場はまやかしだ。マネーがただなのだから。
利上げはあったとしてもほんの少しだろう。Fedは市場の底上げをオバマが退任するまで続けて、次に大統領になる人物に利上げをさせる。そうなれば株式市場がどうなるか、よく見ておくと良いだろう。
現在の株式市場がバブルだというのはトランプ氏が以前から主張し続けていることである。彼は「バブルが崩壊するならば大統領就任前がいい」とまで言っている。
今回の発言も大統領就任後にバブルが崩壊した場合への予防線を張っているのだろうが、それを差し引いてもトランプ氏が他の政治家よりも金融市場を理解しているのは確かである。これは恐らく、彼と親しいカール・アイカーン氏ら著名投資家の相場観が反映されているものと思われる。
利上げを強行すれば量的緩和バブルは崩壊する。臨界点は恐らくあと2-4回の利上げだろう。何故量的緩和バブルが利上げで崩壊せざるを得ないかについては、一番大事な論題なので今年一番最初の記事に書いた通りである。
一方、米国株がどうなっているかと言えば、利上げ観測が高まったことで先週末に大きく急落したS&P 500は、Fedのブレイナード理事が「金融緩和の解消には慎重であるべき」との姿勢を示したことで大きく反発した。利上げに振り回される金融市場が浮き彫りになったのであり、こうした動きはFedが利上げを続ければどうなるかを端的に示すものである。
ただ、一人の市場参加者として興味深いと感じるのは、バブルを認識している政治家がそのバブルの頂点付近で実権を握った場合、どういう行動を取るのかということである。オバマ大統領はこのまま逃げ切るつもりだろうが、次の大統領は困難に直面することになる。トランプ氏は茶化しながら次のように言う。
オバマは席を外したがっている。彼は退任してその後の人生はゴルフでも楽しむのだろう。そして1月以降に何が起こっても彼は一切気にすることはない。
率直に言ってしまえば、既に生じてしまったバブルを無かったことにすることは出来ない。バブルは予防できるものだが、解消できるものではない。生じてしまったバブルはいずれ崩壊するしかない。日本の政治家はこの点を一切理解していない金融の素人ばかりである。
しかしながら、もしバブルの頂点で政治家がそれを正しく認識したならば、少なくともバブル崩壊の悪影響を最小限に抑えることが出来るのだろうか? これは経済学者にとって非常に興味深い論題であり、もしトランプ氏が大統領になった場合、その実験が目の前で見られることになる。ロスチャイルド卿ではないが、それに興味を惹かれない金融関係者はいないだろう。
一人の金融関係者として非常に楽しみにしているし、また成功すれば社会にもたらす利益(あるいは損失の軽減)は途方も無く大きいものになるだろう。いずれの候補者が大統領になるにせよ、お手並みを拝見したい。