アメリカ利上げ懸念で米国株暴落か

利上げを支持するFed(連邦準備制度)高官らの発言にもかかわらず史上最高値付近を維持していた米国の株式市場が急落した。契機となったイベントは特に見当たらず、連銀総裁らは相変わらずアメリカ経済に強気の発言を繰り返してはいたが、フィッシャー副議長の「イエレン議長の発言は今年中に2度利上げする可能性に整合的」以上に強気の発言が新たに出たわけでもない。

それでも量的緩和とその後の利上げ懸念後退によって長年支えられてきたアメリカの株式市場は、利上げが今後も継続するのであれば暴落せざるを得ない。2016年中に1回の利上げであっても株価が史上最高値付近で推移していられるほど呑気な状況でもないはずであり、ある程度の急落は当然といったところだろう。

米国株のチャートを見てみたい。以下はS&P 500のチャートだが、ボラティリティ(価格の振れ幅)も少なく安定した推移が続いていた米国株が急に下落しているのが分かる。

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こうした一見不合理な動きは低金利によって人工的に作られた相場では珍しくないものだが、Fedの関係者が再三警告していた中でも急落しなかったことは逆に投資家に売り場を与えてくれていたものだと考え感謝すべきだろう。

ボラティリティの急騰

今回の急落で注目すべき市場の動きはボラティリティの急騰(株価の振れ幅の拡大)である。シカゴオプション取引所で取引されるボラティリティ・インデックスは一日で40%近く上昇した。

2016-9-11-volatility-index-chart

これが何を意味するかと言えば、オプションの値段が上がったということである。オプションは価格変動に対する保険のようなものであるので、値動きが激しくなれば保険料も高騰する。したがってオプションの価格が上がるのである。

だから相場が荒れる潜在的要因があるにもかかわらず市場が平静を保っているような時は、オプション価格が安く絶好の買い場なのである。少し前に、わたしのメインのポジションである金の買い持ちが利上げ懸念で損を出すリスクのヘッジとして米国株のプット・オプションの買い(下落方向に賭けるポジション)を勧めたが、お陰でこのポジションは早くも利益を出し始めている。

米国株のボラティリティが収まっているお陰で、かなりの廉価でオプションを買うことが出来る。プットの買いを仕込むとすれば、今のように投資家がリスクオフを忘れている瞬間以外には無いだろう。

一方で、利上げ懸念で長期金利が上がったため、金利の付かないゴールドの価格は下落しているが、米国株ほどの急落ではない。

2016-9-11-gold-chart

結果として、この動きはわたしのポートフォリオ全体にとってプラスとなっている。ゴールドの買いへのリスクヘッジを考えた時には相当悩んだものだが、とりあえずは正解だったということだろう。

急落に反する長期見通し

しかしながら、この急落が何処まで続くかどうかはFed次第であり、投資家が完全に予測できる事項ではない。もしイエレン議長がアメリカ経済の減速という現実を認め、利上げを撤回する場合には、金価格は勿論株式市場にとってもプラスになるだろう。そのまま利下げ、量的緩和再開となれば、金価格は暴騰、株式市場ももしかすると最後の上昇を見せるかもしれない。だから米国株の下落に賭ける時には単なる空売りではなく損失の限定されるオプションを選んだのである。

米国利上げがどうなるかを予想しようとしている投資家への助言は、予想をしないことである。中央銀行の思惑を予想して利益を得るのも勿論一つの手段だが、特定の月に利上げがあるかどうかという短期の事項は世界最高のファンドマネージャーにとっても厳密に予測できるものではない。

だから投資家によってより簡単な方法は、どちらに転んでも利益が出るようにポジションを組むことである。Fedが利上げを強行すれば、ゴールドの含み益は減少するが、米国株のプット・オプションが利益を上げる。Fedが利上げを断念すればプット・オプションの保険料は支払わなければならないが、金価格の高騰はそのまま利益となるだろう。重要なのは両方のポジションを良いタイミングで仕込むということであり、それがもっとも難しい部分である。

事前に適切なポートフォリオを組んでしまえば、あとは高みの見物である。利上げなどどちらでもいい。イエレン議長は短期的には好きにすれば良いだろう。だが長期的な落とし所は既に決まっているのであり、投資家は短期的なリスクをヘッジ(あるいは納得)出来ている限り、そこを見据えてさえいれば良いだろう。