アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでアメリカの債務問題について語っている。
深刻化するアメリカの政府債務
アメリカの政府債務の問題が深刻化している。政府債務はコロナ禍のばら撒きで大幅に増加した上に、金利上昇によってアメリカ政府の利払いは増加している。
利払いの増加によって借金が増え、更に国債を発行することになり、そして更に利払いが増える。この悪循環こそがインフレ・高金利の時代に起こることであり、それはデフレ・金融緩和の時代に積み上げられた借金の総決算であると言える。
アメリカでは債務の増加に反対する政党が一応は存在する。野党共和党である。バイデン氏の民主党がばら撒きを行おうとする中、共和党はそれに反対している。2022年に共和党が下院を握って以来、共和党は一応はブレーキとして機能していると言える。(無いよりはマシだというだけなのだが。)
もっと根本的な問題
最近も財政支出をしたい民主党に対し、共和党がそれを抑制する形で両党の合意が行われ、予算不足による政府の閉鎖が回避された。
これに対してサマーズ氏は次のように皮肉を述べている。
太り過ぎの人がデザートを我慢したり、週末にスパの予約をしたりすることは良いことだ。
だが本当に重要なのは習慣を変え、生活を変えてゆくということをするのかどうかだ。
この皮肉はアメリカにふさわしい。そして共和党が財政支出に反対する党だというのも建前であり、あるいは民主党よりはマシだという程度のものだ。
何故ならば、民主党と共和党のどちらが政権を握ろうが、財政赤字は恒常的に増えてきたからだ。アメリカのGDP比の財政赤字のグラフは次のように推移している。
どちらの政党であろうが財政赤字は増えるだろう。むしろこのグラフで意識的に財政赤字を減らしているのは、1993年から2001年までの民主党クリントン政権である。
共和党が政府支出を減らすと口では言いながら実際には財政赤字を増やしているのは、政治家は皆大きな予算を獲得し、票田にばら撒くことを仕事としているからである。
彼らに支出を我慢しろというのは、国民に10万円の給付をしながら自由意志で遠慮しろと言うようなものである。実際、政治家をわざわざ選出してやるのは、彼らに給付金をやることに等しい。
クリントン政権下で財務長官を務めたサマーズ氏は、政治家のそうした本質を見抜いているのかもしれない。サマーズ氏は次のように述べている。
そして今回の同意や、現在行われている議論の中に、財政支出や課税に関する「生活習慣」を変えるようなものは何もない。
政府債務の行きつく先
それでもサマーズ氏は政府支出を増やしたがる民主党の支持者である。だが彼は優れた経済学者でもある。だから金利上昇による利払いの増加で債務問題が危機的な状況にあることに気づいているのである。
サマーズ氏は次のように述べる。
より大きな問題は、世界最大の債務国がどれだけ長く世界最大の覇権国で居続けられるのかだ。
多くの人にとってアメリカは自分が生まれた時から覇権国だったはずだ。だからアメリカが覇権国ではなくなる時のことは想像もできないだろう。
だがレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明しているように、アメリカの前に覇権国だった大英帝国やオランダ海上帝国は実際に債務の増加によって衰退しているのである。
そのパターンは画一的であり、まずデフレと金融緩和の時期があり、その時期に債務は膨張する。そして緩和がいずれはインフレをもたらし、そして金利が上昇して莫大な政府債務に大量の利払いが発生する。利払いの増加が債務状況を更に悪化させ、金利が更に上昇する。
そのサイクルのうちアメリカが今何処に居るのかと言えば、利払いの増加が問題となって金利が上昇してきた辺りである。
利払い増加と債務増加の悪循環に一度入ってしまえば、あとは流れるように国家は衰退してゆく。そしてこの悪循環に入った国がそのまま緩和に頼り続けるとどうなるかについては、前回の記事で報じておいた。
利払いの増加で国債価格が下落しているアメリカにとって、アルゼンチンの問題は規模の違いはあれ現実的な問題となりつつある。
だから民主党支持者のサマーズ氏でさえ債務問題に警鐘を鳴らしているのである。だが政治家は耳を貸さないだろう。
問題は、どれだけアルゼンチンに近づけば人々が気付くのかである。人々はどれだけ太れば「生活習慣」を転換できるだろうか。歩けなくなる頃だろうか。
世界秩序の変化に対処するための原則