8月26日、アメリカのジャクソンホールで開かれた会合で、Fed(連邦準備制度)のイエレン議長が講演を行った。講演の概要や直後の市場の反応については前回の記事に纏めてあるが、今回は前回の記事で触れなかった部分について書きたいと思う。
報じた通り、講演ではイエレン議長は主に年内の利上げに対する意欲を再確認した一方で、実はリスクシナリオについても語っており、そのなかで量的緩和を再開する可能性についても述べられている。今回の記事ではそちらに焦点を合わせて報じてみたい。
利上げを基本方針と強調するFed
再確認となるが、ジャクソンホールにおけるイエレン議長のメインのメッセージは「雇用と物価をわれわれの目標に対して維持してゆくためには政策金利を徐々に上昇させてゆくことが妥当であると引き続き考える」というものであった。
これに対し、フィッシャー副議長も「イエレン議長の発言は年内利上げに整合的なもの」と発言し、Fedは総出で利上げへの基本方針を確認した形となった。
しかしその一方でイエレン議長はアメリカ経済のダウンサイドリスクにも言及していた。生産性や経済成長率が世界的に低迷し、消費者がお金を使わずに貯蓄率が高まるような状況になれば利上げを継続することは難しいとし、アメリカ経済がリセッションに陥るような状況になれば、Fedは「量的緩和を再開し、経済が回復するまで政策金利を低位のまま抑えておく意向を表明することが出来る」と主張した。
矛盾するイエレン氏の主張
しかしこうした主張はアメリカ経済に楽観的な見方をし、利上げを支持したイエレン議長のコメントとは矛盾する。アメリカ経済が回復するのであれば、量的緩和を再開しなければならないような状況は一番起こりえない可能性のはずである。しかしイエレン議長はその可能性に言及せずにはいられない。現実にアメリカ経済は順調に沈みつつあるからである。
これはわたしが去年からずっと主張していたシナリオであり、2016年も後半に差し掛かる今、確実に現実のものとなりつつある。上記の記事で説明した速報値ではアメリカの経済成長率は1.23%だったが、最近発表された改定値では更なる下方修正が行われた。
2017年に向けてのアメリカ経済見通し
ではアメリカ経済はどうなるのか? そしてFedの金融政策はどうなってゆくのか? それについてもわたしが去年からずっと主張してきた通りであり、また著名投資家がこぞって主張する通りである。
ジャクソンホールにおける講演のあと、著名債券投資家のビル・グロス氏がCNBCのインタビュー(英語)に答え、「今後の金融政策は、先ず少しの金融引き締め、そして長期的には金融緩和ということになるだろう」という見方に同意した。
市場の反応
面白いことに、講演の直後には株高、ドル安で反応していた金融市場だが、金曜日のマーケットの終わりにかけてタカ派の見方を取り戻し、引けにはドル円もユーロドルもドル高となっている。
しかしこう言ってしまっては元も子もないが、極論で言えば市場がFedの言動に反応するならば、市場はその時点で間違っている。何故ならば、長期的にはFedに金利を決める権利などないからである。金利はアメリカ経済の今後によって決まる。そしてイエレン議長にはアメリカ経済の今後を予測する能力はない。だからアメリカ経済が上手くゆくシナリオと景気後退に陥るシナリオという真逆の方向性の両方に言及しなければならなかったのである。
だから投資家は過度にFedを気にすることなく、アメリカ経済がどうなるかを予測し、自分のポジションを整えるべきである。しかし短期的にはFedが誤る可能性を考慮してリスクをヘッジする必要がある。
もうこれらのことは、以前金価格を予想した記事で書いてしまった通りである。だから本当はもう何も言うことがない。いつものことだが、すべて事前に書いてしまっているのである。