ガンドラック氏: MMT論者はネズミの巣穴に帰ってもう出て来ない

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がYahoo Financeのインタビューで、かつていくらお金を刷っても問題ないと主張したMMT(現代貨幣理論)について痛烈なコメントをしているので紹介したい。

莫大な政府債務と国債暴落

アメリカの政府債務がいよいよ大きな問題になりつつある。コロナ後にアメリカで行われた莫大な現金給付によってインフレが発生し、それに対処するためにアメリカでは利上げが行われたが、結果莫大な政府債務に対する利払いが急増し、利払いのためにアメリカ政府は更に借金を増やさなければならなくなっている。

これはもはや無限ループである。利払いが増加したので借金で対応しているが、借金をすると利払いが更に増える。

そうすると債券市場には米国債があふれかえることになる。このことに気づいたアメリカの市場では米国債が暴落している。

そして米国債の下落で金利が更に上昇し、それが株価を下落させているのである。

財政赤字の問題

根本的な問題は、毎年の財政赤字である。アメリカの財政赤字はコロナ禍で急増したが、その後もそれほど小さくなることもなくアメリカは赤字を垂れ流している。

だが政治家は赤字を減らす気はなさそうだ。彼らの仕事は出来る限り票田にばら撒くことなのだから、彼らには赤字を減らすインセンティブなどない。

インタビューでは司会者はバイデン政権の様々なインフラ投資政策に言及し、それが原因かとガンドラック氏に尋ねているが、ガンドラック氏はむしろこう言っている。

政治家が実際にあなたが挙げたようなことにお金を使っていたらまだましなのだが。だが実際には多くの税金が無駄遣いされていると確信している。多くのお金が消滅している。

例えばウクライナに送った資金は、ウクライナの政府関係者によれば何処かに消えている。彼らは資金を盗んでいる。まるで明日などないかのように。

ガンドラック氏はウクライナ支援に最初から反対していた。彼はウクライナでの戦争が始まった直後にこう言っていた。

アメリカ国内の特定の利害グループはどうやらアメリカ国外で半年間戦争をしないことさえ耐えられないようだ。

そして1年半が経ち、アメリカの世論は徐々にガンドラック氏に近付きつつある。共和党支持者はウクライナに武器を送ることに反対している。

そしてウクライナは空中分解寸前である。ウクライナの政治家はもはやウクライナの勝利を信じていない。

ウクライナでは、ゼレンスキー大統領は同僚に対して、西側諸国がウクライナの勝利を疑うような発言をしないよう必死に説得しようとしているが、彼の周りの人々は誰もそれを信じていないということが西側の報道で流れている。

状況はアメリカ軍撤退前夜のアフガニスタンに似ている。アメリカ軍がアフガニスタンから撤退し、タリバンがアフガニスタンに帰ってきた時、アメリカが据えていたアフガニスタンの傀儡政権はタリバンと一切戦わずに一目散に逃げ出した。

彼らの目的はアメリカが支払う給料であって、命をかけて戦うことではなかったからである。

アメリカが手を引きつつある今、ウクライナの政治家はまさにアフガニスタンの傀儡政権と同じ気分だろう。そうでなくともウクライナは欧州有数の汚職大国である。この状況で彼らにお金を送るとどうなるか、ガンドラック氏は考えているのだろう。

財政赤字は解決されるか

司会者はバイデン政権の財政政策に言及したが、それでは来年の大統領選挙で野党共和党が政権を握れば問題は解決するのだろうか。

ガンドラック氏は次のように予想している。

共和党が政権に返り咲く? それがどうした? 財政赤字の問題はすべての政権下で悪化してきた。これは病気だ。永遠に2兆ドルの財政赤字を垂れ流し続けられると信じている。

面白いことに、ポール・チューダー・ジョーンズ氏が同じことを言っていた。来年の大統領選挙でトランプ氏が勝つかバイデン氏が勝つかがアメリカ経済にどう影響するか? 同じである。両者ともに現金給付を行なってインフレを発生させた張本人である。

だからガンドラック氏は次のように言う。

これは共和党か民主党かの問題ではない。数学者かエセ経済学者かの問題だ。

お金をばら撒いてインフレになるのは算数の問題だと言いたいのだろう。ガンドラック氏はかつてこう言っていた。

4時に10億ドルを国民全員の銀行口座に振り込み、5時にまだインフレが起こっていなければ、フェラーリの店舗前の行列はなかなかの見ものになっているだろう。

ちなみにアメリカの中央銀行は2021年にこの算数の問題が分からなかった。

財政赤字政策の理論的根拠

赤字は国家が破綻するまで修正されることはないだろう。

何故政治家がそうしたがるのかは既に説明したが、彼らは自分の考えが正当なものだと思っているので、わざわざ理論的根拠を用意してくれている。

それがお金をどれだけ刷ってばら撒いても問題ないとしたいわゆるMMTである。そしてアメリカは紙幣を大量に刷った。それでどうなったかと言えば、インフレになった。

もう笑うしかないのだが、ガンドラック氏はこう語っている。

政治家はMMTのような考えを持ち出してきた。それがどうなったか? 無限に支出してもインフレにならないという酷いアイデアを彼らが持ち出してきたのは5年前のことだ。

彼らは今や全員ネズミの巣穴に引っ込んでいる。4.5兆ドルの財政出動によって明らかにインフレが起きているからだ。MMTによれば何の問題も起こらなかったはずなのだが。

結論

ということで、試す前から間違っていると分かっていた怪しげな理論は、単に間違っていた。

何のオチもないそれだけの話なのである。

実際、「お金をどれだけ刷っても問題ない理論」は何も新しい話ではなく、歴史を振り返ってみれば、人類が無制限にお金を刷りたくなった時にはいつも登場し、その後のインフレとともに姿を消すいつもの風物詩なのである。

そんなろくでもないものに入れ込んだ人は時間を多少無駄にしたと言えるだろう。だが幸いにも時間は多少しか無駄になっていない。MMTはすぐに消え去ったからである。