ドラッケンミラー氏、米国の大幅な利下げを予想

引き続き、ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementを長年運用していたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏の、Robin Hood主催のインタビューである。今回はアメリカの金融政策について語っている部分を紹介する。

景気後退時の債券トレード

これまでの記事で書いてきた通り、ドラッケンミラー氏はアメリカ経済がこれから沈んでゆくことを予想している。

景気後退が来れば株価が下がるのもそうだが、グローバルマクロの投資家はやはり債券のトレードを考える。金利は株価よりも密接にインフレ率や経済成長率に関係しているからである。

このインタビューではドラッケンミラー氏はプロフェッショナルな債券投資戦略を語っている。債券投資家としては普通の考え方だが、個人投資家で債券に詳しい人は少ないと思うので、参考になるだろう。

ドラッケンミラー氏は現在のアメリカの債券市場をどのように考えているのか。彼は次のように述べている。

原油と金利とドルが上がっているが、それはアメリカ経済にとって決して良い兆候ではない。そうした今の自分の経済見通しを考えれば、普通なら債券を買う場面だ。これまで過去35年はそのように投資してきた。

何故ならば、景気が減速しインフレ率が下がるならば、金利は下がるからである。債券にとって金利低下は価格上昇を意味するので、債券の買いは金利が下がる方向に賭けるトレードである。

2023年の債券トレード

しかしドラッケンミラー氏は「普通なら」という注釈を付けている。それは、今の状況では少し違うということだ。

何故ならば、まず第一に、景気が減速してもインフレが収まるとは限らない。景気後退で短期的にデフレになっても、その時に金融緩和をすれば、長期的なインフレ再燃を懸念して長期の債券では金利がむしろ上がるかもしれない。

ドラッケンミラー氏は以前、Fed(連邦準備制度)のパウエル議長がインフレ打倒をやり遂げるということを疑っていた。

そして第二に、米国債は買い手不足に陥っているからである。コロナ後の財政赤字で国債の大量発行が続いているが、Fedは量的引き締めでむしろ国債の保有を減らしている。誰も買わない米国債は暴落している。

だから景気後退で金利低下といういつものトレードでは不十分だとドラッケンミラー氏は考えたらしい。彼は今年の自分のトレードを次のように説明している。

5月から7月まで債券を空売りしていた。7月にはその空売りを持ったまま、2年物国債を買い持ちにし、新規の債券の空売りを追加した。

基本的には米国債の買い手不足の問題で金利上昇を予想していた。そしてそれは当たったと言える。アメリカの長期金利は次のように推移している。

だが2年物国債を買い持ち(金利低下に賭ける)にした理由は何か。長期債が経済の長期見通しに影響されて動く一方で、2年物国債は今後2年の政策金利の変化に影響されて動く。

つまり、ドラッケンミラー氏は経済減速による利下げの可能性に賭けているのである。彼はこう続けている。

2、3週間前ほど前には経済の中で何かが崩壊する可能性をかなり心配するようになった。

だから巨額のレバレッジをかけた2年物国債の買いポジションを作った。結果としては今は2年物国債を大きく買い持ちにし、30年物国債を空売りしている。

2年物国債の額が大きいので、2020年以来初めて合計では債券を買い持ちしていることになっている。

アメリカの金利はどうなるか

つまりドラッケンミラー氏は短期国債が長期国債に比べて相対的に下がることを予想していることになる。

長期金利から短期金利を引いた長短金利差は長らくマイナスとなっていたが、ドラッケンミラー氏はそれが上昇することを予想している。それは債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏がずっと待っていた景気後退直前のサインでもある。

ドラッケンミラー氏としては、短期金利が下がっても長期金利が上がってもどちらでも良いらしい。だがあえて予想すればと聞かれて、ドラッケンミラー氏は1年後のそれぞれの金利水準を次のように予想している。

2年物国債の金利は3%、30年物国債の金利は今とそれほど変わらないだろう。

結論

現在の政策金利は5.25%なので、政策金利の今後を織り込んで推移する2年物国債が3%ということは、政策金利がここから2%以上下がることをドラッケンミラー氏は予想していることになる。

ちなみに長期金利は需給問題のために危ういが2年物国債の低下に賭けるトレードはこれからの景気後退から利益を得ることができるというのは、以前より筆者が何度か言及している予想と同じである。2年物国債の金利は次のように推移している。

グローバルマクロの投資家であれば考えることはやはり同じである。

ドラッケンミラー氏の株価予想については以下の記事で解説しているので、そちらも参考にしてもらいたい。