11月FOMC会合結果: 金利は維持、パウエル議長の利下げ否定を市場は信じず

米国時間11月1日、アメリカの中央銀行Fed(連邦準備制度)はFOMC会合の結果を発表し、2会合連続での政策金利の維持を決定した。

2会合連続の利上げ停止

Fedは金利をゼロから5.25%まで上昇させた後、2会合連続で利上げを停止した。背景にはアメリカのインフレ率がかなり下がってきたことが背景にある。

アメリカのインフレ率は以下のように推移している。

Fedはこの状況をどう見ているのか。

会合後に発表される声明文は、前回と内容がほとんど変わっていない。ただ、前回には「経済活動は着実に拡大している」と書かれていた部分が「強く拡大した」と強気方向に変更されており、そろそろアメリカ経済の景気後退も視野に入ってきたと考えている筆者としてはパウエル氏は正気かと思う。

だが、景気後退直前にFedが経済に強気になるのはいつものことである。以下の記事で説明した通り、リーマンショック直前の金利水準をイエレン議長(当時)は「緩和的」と呼んでいた。その数ヶ月後にリーマンショックは起きた。

だからパウエル議長が景気後退直前のアメリカ経済を「強い」と呼んでもそれはいつものことだろう。

問題は今後の利上げである。特に、前回の会合で発表された、会合参加者の政策金利の見通しをプロットしたドットプロットでは、Fedは年内にあと1回の利上げを見込んでいる。今回の会合で利上げをしなかったため、今年残された会合は12月の1回だけであり、次回会合での利上げが焦点となっている。

パウエル氏のインフレ見通し

だがそもそもFedは利上げをするのか。パウエル氏が経済を強いと考えているのであれば利上げをしても不思議ではないが、それが現在の経済環境に合っているかどうかは別の話である。

パウエル議長は最近のインフレ率下落について次のように述べている。

良いデータが数ヶ月続いただけでは、インフレが目標に向けて持続的に下がってゆくという確信を得るために必要なデータの最初の部分に過ぎない。

インフレ率を持続的に2%に持ってゆくためのプロセスにはまだまだ長い道のりがある。

インフレについてはパウエル氏にも一理あるかもしれない。インフレ打倒は一筋縄ではいかない。(その事実を2021年にはパウエル氏は全否定していたのだが。)

しかし問題は、インフレが上がるか下がるかにかかわらず、経済成長の方は容赦なく燃料切れに向かっていっているということである。

ガンドラック氏: コロナ後の緩和による好景気は終わり、米国経済はデフレと景気後退へ

12月利上げ

この状況で12月の利上げはあるのか。パウエル氏は将来のFOMC会合について聞かれ、いつも通り次のように答えた。

将来の会合については何も決めていない。

それが将来の会合一般についてのわれわれのやり方だ。

パウエル氏は2021年にインフレ見通しを完全に間違って以来、もはや何も予想しない戦略に徹している。

だから将来の金利についてはFedではなく金融市場に聞くほかない。金利先物市場では、12月のFOMC会合について次のように予想している。

  • 0.25%利上げ: 20.0%
  • 利上げなし: 80.0%

Fedの自己申告に反して利上げなしがメインシナリオとなっている。しかも利上げの確率は会合前より少し下がっている。今回の会合を受けて市場は利上げがないという予想を強めたことになる。

2024年アメリカ経済と政策金利見通し

また、来年以降の政策金利について、パウエル氏は次のように語っている。

今のところ利下げについてはまったく考えていないというのが実際のところだ。利下げについては考えていない。

だが金融市場の方は利下げを織り込んでいる。金利先物市場は来年3回の利下げを想定している。ちなみに筆者は来年は景気後退が起こり利下げは3回では済まないと考えてる。

来年の景気後退を予想しているのは筆者だけではない。著名投資家の間では景気後退はむしろコンセンサスとなっている。

インフレが起こってしまった後の利上げでインフレ率が鈍化したならば、経済成長率もまた時間差で鈍化しなければならない。それがフリードリヒ・フォン・ハイエク氏が説明しているマクロ経済学の原則である。

パウエル氏はそれについてどう思っているのか。彼は次のように述べている。

わたしもほとんどの同僚も、物価安定を完全に取り戻すには労働市場の伸びがいくらか鈍化し弱くなる必要があると今でも考えている。

パウエル氏は結局、アメリカ経済に強気なのか弱気なのか。恐らく本人もよく分かっていないのだろう。

Fedは放っておいて良い。来年の実体経済がどうなるかが分かれば、Fedの行動は自動的に予想できる。だから実体経済にフォーカスすべきだ。

現在のアメリカ経済の強さはコロナ後の現金給付の資金がまだ残っていることが原因である。だからそれが尽きるときがアメリカ経済の終わりである。

その時期については以下の記事で解説しているので、そちらを参考にしてもらいたい。