米国の景気後退の遅れから利益を得るトレードを紹介する NVIDIA株を例に

アメリカの景気後退は利上げが始まった時から言われていた。だが金融政策が実体経済に影響を及ぼすまでには時間がかかる。コロナ後の高インフレから景気後退までの長い道のりを考えれば尚更である。

アメリカの景気後退

アメリカの景気後退そのものから利益を得るトレードは色々ある。米国株が下落し、金利が下落し、ドルが下落することになるだろう。その順番についても以下の記事で既に説明してある。

だが景気後退はまだ来ていない。前回の記事で述べた通り、それは多くの専門家の予想より遅れている。では、景気後退が遅れることから利益を得るトレードは可能だろうか?

例えば、景気後退がまだ来なければ、それは株価にはプラスになるだろうか。しかし米国株は結局高金利に頭を抑えられており、もう2年も何処にも行っていない。

時間経過で利益を得るトレード

時間経過で利益が得られるトレードとは何だろうか。

プロのトレーダーなら、まずオプションの売りを思いつくだろう。オプションの売りとは保険を売るようなものであり、価格が大きく動いた場合は買い手の損失を負担しなければならないが、価格が膠着して動かない場合には時間の経過とともに保険料が得られる。

だが、オプションの保険料はボラティリティが高いほど高くなる。逆に株価が停滞している今の状況では高い保険料は取れない。ボラティリティ指数は以下のようにかなりの低水準にある。

だからオプションの売りもあまり美味しいトレードではないだろう。

では他に何があるか。時間経過で利益が得られるものと言えば、債券を買って金利を受け取ることである。実際、短期債は悪くない。アメリカでは政策金利が5%台なので、短期債を保有すれば似た金利を得続けることができる。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は次のように言っていた。

わたしの会社には保有債券の100%がAAA格付けの債券ファンドで平均残存期間が1年、変動金利が7.5%のものがある。それで何の問題がある?

だがそれはドルベースで投資している投資家の話である。米国以外の投資家は、ドルは景気後退が来れば下落する通貨であるということを考えなければならない。景気後退が来ない間は問題がないかもしれないが、いずれ下落を覚悟しなければならない。そんなチキンレースが投資として割に合うだろうか。

株式市場における時間経過

そこで、債券ではなく株式市場で、しかもオプションに頼らずに、時間経過によって利益を得る方法を紹介したい。

そんな方法があるのか? と多くの読者は言うだろう。実際、これはオーソドックスな方法ではない。だがオプションに頼らずに株式市場で時間経過から利益を得る方法は存在する。

どうすれば良いのか? 以前、NVIDIA株を長期的に有望な銘柄として紹介したことを思い出してもらいたい。

NVIDIAはCPUより高度な演算のできるGPUの大手メーカーである。GPUはAIと暗号通貨の両方に使われているので、この2つの産業が長期的に高成長するならばその恩恵を一身に受ける有望株なのである。

だがNVIDIAには問題がある。株価収益率が非常に高いことである。株価収益率は株価を1株当たり利益で割ったものであり、低いほど利益に対して株価が低く、割安ということになる。

だがNVIDIAの株価収益率は高い。1株当たり純利益が4.14ドルに対して株価が418ドルなので、株価収益率は100倍を超える。米国の株価指数S&P 500の株価収益率は20倍強である。

時間経過で下落するNVIDIAの株価収益率

しかし筆者は上の記事でNVIDIA株を割高ではないと書いた。

何故そう言えるのか? NVIDIAは高成長株だからである。アナリスト予想の平均では、現在4.14ドルであるNVIDIAの1株当たり純利益は、来年初めには10.2ドル、再来年初めには16.1ドルにまで上昇する。

この数字に基づけば、NVIDIAの株価収益率は来年初めには40倍、再来年初めには26倍にまで下がり、S&P 500の平均とほとんど変わらなくなる。

つまり、NVIDIAの株式は時間経過によってどんどん割安になってゆく。一方でAI銘柄筆頭のNVIDIAの高成長が再来年に止まることはないだろうから、株価収益率26倍は割安過ぎるということになり、株価は上がらざるを得ない。

NVIDIA株と景気後退

だが、この計算は「何も問題がなく再来年の初めまで時間が経過すれば」という条件付きである。そして筆者の予想では、来年には問題が生じる。アメリカの景気後退である。

景気後退が来れば、株価収益率の高い高成長株は真っ先に下落してゆく銘柄である。だがスタンレー・ドラッケンミラー氏などのファンドマネージャーは、それでもNVIDIAという個別株の可能性に賭けて大きなポジションを取っている。

勿論、来年の景気後退を予想する投資家は、NVIDIAを買い持ちにした分だけ株価指数を空売りしている。いわゆるロングショート戦略である。

だがこのロングショート戦略は、まさに時間経過によって利益が出るトレードである。景気後退が来ればNVIDIA株は下落するだろうが、景気後退が遅れれば遅れるほどNVIDIAの株価収益率は下がってゆく。

NVIDIAの株価は次のように推移している。

一方で、S&P 500は次のように推移している。

結論

NVIDIA株が米国株全体ほど下がっていないのは、まだ景気後退が来ていないからである。時間経過による株価収益率の低下がNVIDIAの株価を底上げしている。

その底上げ効果は景気後退が来ない限り(そしてNVIDIAが個別要因でコケない限り)持続する。NVIDIAの買いと株価指数の空売りを同時に行えば、景気後退が来ない限りNVIDIAの株価は底上げ効果を受け、投資家は差し引きで利益を得ることが出来るだろう。

一方で景気後退が来た場合にも、指数の空売りからの利益があるので、NVIDIA株下落の損失とどちらが大きいかは分からない。景気後退が十分に遅ければ、指数よりNVIDIA株の方が下がらない可能性もある。仮にそうならなかったとしても、長期的にNVIDIA株に賭けている投資家には耐えられる損失に収まるだろう。

この投資方法はNVIDIA以外の将来有望な高成長株でも行なうことができるので、是非参考にしてみてほしい。

ちなみに来年のアメリカ経済の景気後退のタイミングについては以下の記事で予想している。そちらも参考にしてもらいたい。