引き続き、Fox BusinessによるDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のインタビューである。今回はリスク資産としての米国株の魅力について語っている部分を取り上げたい。
金利高騰と株価水準
コロナ後の現金給付によって引き起こされたインフレにより、アメリカでは金融緩和を撤回し金融引き締めを行わなければならなくなった。
アメリカでは利上げは今のところ停止されているが、量的緩和で買い入れた国債保有を減らす量的引き締めはまだ行われており、これまで中央銀行が買っていた米国債に買い手がいなくなったことで長期金利の高騰が起きている。
国債の金利が上がったということは、投資家は無リスク資産とされる国債を買っていれば高い金利を得られるということである。
それは米国株にとって脅威である。株式には下落リスクがある。だが国債はデフォルトしない限り想定された金利と元本がきっちり返ってくる。
ここで投資家にとっての問題は、下落リスクを取ってまで株式を買う魅力が株式に存在するだろうかということである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
量的引き締めと現在の金利水準を考慮すれば、株式の代わりになる資産はいくらでもある。
株価収益率が23倍のS&P 500から何が得られるだろうか? 長期リターンはどうなるだろうか?
株価収益率が23倍ということは、1株当たり利益と株価が変わらなければ、その株式が投資額と同じ金額の利益を積み重ねるまで23年かかるということである。
だが、例えば長期債の金利が5%ならば、20年で元本と同じ金利が得られる。(現在、20年物米国債の金利はまさに5%に近い。)
それはつまり、現状のファンダメンタルズでは米国株を買う意味は皆無だということになる。国債よりもリターンが悪いリスク資産を誰が買うだろうか?
企業利益の見通し
だから株式を買う理由があるとすれば、市場は1株当たり利益の上昇を見込んでいるからだと言うほかない。だが企業利益の見通しについてガンドラック氏は次のように言っている。
来年の1株当たり利益をどう予想する? コンセンサス予想は11%の上昇だ。それは自分には非常に楽観的に見える。
2024年には景気後退が控えている。2022年の時点でSoros Fund Managementのドーン・フィッツパトリック氏が予想していた通りである。
景気後退が来て企業利益が増加するという見通しはかなり無理があるだろう。景気後退が来ないか、企業利益のコンセンサス予想が間違っているかどちらかである。そして筆者の意見では、コンセンサス予想が間違っているのである。
企業利益が上がらない理由については以下の記事で詳しく説明しているので、そちらを参考にしてもらいたい。
株式は債券に勝てるか
米国株は米国債に対してかなり分の悪い勝負をしているが、米国株の競争相手は国債だけではない。債券市場には国債よりもリスクはあるが金利も高い債券が数多く存在している。
債券の専門家であるガンドラック氏は次のように述べている。
株価収益率はいまだ20倍を超えている。より安全でボラティリティの低い資産を保有して8%や9%の金利を得る方がよほど良い。債券市場では大きなリスクを取らずにそれが出来る。大きなリスクなしで8%だ。
ガンドラック氏は住宅価格上昇で財政状況の良い家主の住宅ローンなど、金利はかなり高いがデフォルトリスクが少ないとガンドラック氏が考える債券を推奨している。景気後退になればデフォルトリスクは上がるが、その中から良い債券を選ぶのは債券投資家の本領だろう。
あるいはガンドラック氏は更にリスクの少ない債券投資を挙げる。
わたしの会社には保有債券の100%がAAA格付けの債券ファンドで平均残存期間が1年、変動金利が7.5%のものがある。それで何の問題がある?
これから当面の間、株式市場から8%以上の年率リターンを得ることは難しいだろう。7.5%の金利が得られることを知っていながら、サイコロを振って祈る理由があるだろうか。
米国株にとっての問題は、こうした選択肢が存在する中で投資家の資金を引きつけ続けることができるのかという問題である。
まあ無理だろう。これから起きることはこうである。景気後退が明らかになるにつれ、企業利益が来年大きく上昇するという株式市場の幻想が徐々に剥がれてゆく。そして景気後退になれば、企業利益だけではなく株価収益率も下がってゆく。
その結果、株価がどのような水準になるのかということについては、以下の記事で試算している。参考にしてもらいたい。