ドナルド・トランプ氏は本当はアメリカが嫌いなのではないか?

ドナルド・トランプ氏の発言がまた物議を醸している。彼はここのところオバマ大統領とヒラリー・クリントン氏をISIS(イスラム国)の創始者だと呼び続けており、周囲の反論に対しても「自分はただ真実を言うだけだ」と取り付く島もない。

CBS(原文英語)に事の顛末が纏められているので訳してみよう。先ずはフロリダで行った演説でトランプ氏が以下のように述べたところから始まる。

ISISはオバマ大統領を讃えている。彼はISISの創始者だ。OK? 彼は創始者なのだ! 彼がISISを作った。そして共同創業者は腐敗したヒラリー・クリントンだと言ってもいいだろう。

また、その後のテレビ番組でも「オバマ大統領がISISの創始者だ。絶対にだ」と発言し、やや戸惑った司会者が「分かりますよ。オバマ大統領の決定した米軍のイラク撤退が中東に真空地帯を作り出し、それが中東の平和を損ねる原因になったということでしょう?」と返すと、トランプ氏は「いや、違う。わたしはオバマ大統領がISISの創始者だと言ったのだ。本気で言っている。彼はMVPだ。彼にMVP賞をあげよう。ついでに彼女にもだ。ヒラリー・クリントンにもだ。」と引こうとしない。

トランプ氏は続けて「彼がイラクから米軍を撤退させた時のやり方、それがISISの創始だったのだ」と述べたが、それ以上の詳しい説明を行っていない。

ただ、ここで思い出されるのはロシアのプーチン大統領が同じような発言をしていたことである。彼はISISが米国に供給された武器によって戦っていると指摘していた。米国はシリアで傭兵を雇って反体制派としてシリア政府と戦わせているが、その傭兵は戦闘が終われば米国が与えた武器を返さずに次の雇用者を探し、ISISが彼らを武器ごと雇っている、という趣旨である。以下の記事で紹介した。

あの領域に武器を持ち込んでいるのは誰なのかということだ。あなたがた(米国ジャーナリスト)は本当に、シリアで戦っているのが誰か、分かっていないのですか? 彼らのほとんどは傭兵です。彼らが金で雇われているということを理解していますか?

傭兵はどちら側であれ、金をより多く払う側に付きます。米国は傭兵に金を払っています。いくら払っているかもわたしは知っています。彼らは武器を与えられ、戦い、その武器は戦闘が終わった後も返ってくることはありません。

その後、彼らはその武器を持って、もう少し多く給与を払ってくれる組織(訳注:ISISを指す)を見つけ、その組織のために戦います。そしてシリアであれ、イラクであれ、油田を占拠するのです。

西側のメディアを鵜呑みにすべきではないのと同様にプーチン大統領の発言も鵜呑みにすべきではないが、少なくとも米国が中東に持ち込んだ武器がISISに流れ続けているというのはプーチン大統領の妄言ではなく、西側のメディアも報道している事実である。例えばロイターがイラクでのニュースだが米国の戦車やミサイルがISISに渡っている様子を伝えている。

ただ、それよりもトランプ氏の発言で気付いたのは、実は彼はアメリカが海外でやってきたことが本当は嫌いなのではないかということである。

ISISに対するアメリカの姿勢のほかにも、彼は例えばイラク戦争を開始したブッシュ政権を批判していた。イラク戦争ではイラクが大量破壊兵器なるものを所持しているという建前で行われた侵略戦争だが、最後にはアメリカもイギリスも大量破壊兵器などなかったと認めざるを得なくなった。それでもイラクは侵略され、アメリカとイギリスの統治下に置かれた。

この人殺しに一体何の正当性があったと言うのだろう? しかし当時政権を握っていたブッシュ氏もブレア氏も悪びれもせず何の責任も取っていない。西洋とはそういうものである。

トランプ氏がアメリカの失敗を指摘するこうした発言を無関係な外国人として聞いているとあまりに苦笑を禁じ得ないのだが、しかしこれではアメリカが酷い国だと自分で言って回っているようなものである。

「アメリカ・ファースト(アメリカ第一)」が口癖のトランプ氏からこうした発言が出てくるのはやや奇妙なのだが、しかしアメリカの政治が嫌いだからと言って、アメリカが嫌いだということにはならないということなのかもしれない。いずれにせよアメリカにはこうした馬鹿げた行いをいい加減止めてもらいたいものである。