世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログでガザ地区を支配するハマスのイスラエル攻撃から始まった現在の戦争について語っている。
ダリオ氏の戦争予想
ダリオ氏の優れた予測能力には脱帽するほかない。何故ならば、ダリオ氏はウクライナ情勢の前から世界で戦争が起こる可能性について警告していたからである。
ダリオ氏はBridgewaterの優れた情報収集能力を使ってロシアやハマスの動きを事前に把握していた、わけではない。しかしダリオ氏は、覇権国が大量の借金を抱えて経済成長が鈍化し、大国としての体力が衰えてゆく時には、大きな戦争が起きる可能性が高いという歴史の原則を把握していたのである。
ダリオ氏は次のように書いている。
わたしが歴史の研究と、次に何が起こるかに賭ける50年の自分の経験から得た視点から考えると、残念ながらイスラエルとハマスの戦争はより暴力的で広範囲な多国間の戦争に向かう一歩だ。
何故覇権国が凋落するときに戦争は起きるのか。筆者の意見では、それは恐らく覇権国が大抵の場合他国に対してまともな扱いを行なっていないからだろう。
アメリカはもう何十年も中東を好きにしてきた。それは別にアメリカに大義があるからではなく、中東に原油があるからである。だからアメリカの体力が弱った時、好きにされていた側が反撃する。
それが例えばアフガニスタンに起こったことである。アフガニスタンにはアメリカが傀儡政権を建てていたが、アメリカがそれを維持できなくなるとタリバンが帰ってきてアフガニスタンを支配した。
ちなみにタリバンが帰ってきた時、アメリカから給料をもらって政権を名乗っていた傀儡政権の人々は一目散に逃げ出した。彼らの目的は給料をもらうことであって、アフガニスタンを統治することではなかったのだから、当たり前である。
ハマスとイスラエルの戦争
そして今度はパレスチナである。パレスチナの場合は、アメリカの体力は関係なかったかもしれない。
パレスチナ人はもともと限界である。自分たちの住んでいたところにイギリスとアメリカによって急にユダヤ人の国が作られ、自分たちの居住地域は小さな飛び地に限られるようになり、水道などのライフラインもユダヤ人に握られるようになり、そして何より彼らは頻繁にイスラエルによって空爆されていた。
この戦争はこれからどうなるだろうか。ダリオ氏はこう述べている。
歴史の知識がありこの状況を見ている人は、次の2つのことを憂慮すべきだ。まずこれらの紛争が最小限のものから、相手側が完全に打ちのめされるまで何がなんでも勝ちに行く残忍な戦争に発展すること、そしてもう1つはこれらの紛争がより多くの国を巻き込むことである。
1つ目の条件は、既に満たされているかもしれない。イスラエルの防衛相は「われわれは獣人と戦っており、そのように扱う」と述べた上で、200万人以上のパレスチナ人が住むガザ全体への水や電気の供給を断った。
結果として多くのパレスチナ人が餓死の危機にさらされ、病院は機能不全に陥った。国連はイスラエルを非難している。イスラエルは地上作戦を前にガザ北部からの全員退避を呼びかけているが、ガザにはまともな交通機関さえ動いていない。もともと逃がすつもりがないのである。
Reutersによれば、病院から動けない新生児の治療を続けるガザ北部の医師は「殺したいなら殺せ」と言いながら治療を続けている。
イランの介入
こうしたイスラエルのメンタリティが中東の人々の心証を逆なでしている。それがダリオ氏の言う2つ目の条件を満たす。残忍さが他国の介入を促す。
イスラエルを生み出した西側諸国が当然にパレスチナを見捨てる中、誰かが介入するとすればイランだろう。イランは様子を見ていたが、イスラエル政府のガザ地区の扱いを見て、状況への介入を警告した。イランのアブドラヒアン外相は次のように述べている。
イランにもレッドラインがある。
イスラエルがガザへの地上侵攻を実行に移せば対応せざるを得ない。
この戦争と危機を広げないことに関心を持つ者は、ガザの市民と民間人に対する今行われている野蛮な攻撃を食い止める必要がある。
自分の地域にいきなりアメリカとイギリスによって国が出来た経緯から、他の中東諸国もパレスチナ人に同情的である。
イランのライシ大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談を行なった。イランの介入について話し合っただろうし、イラン側の発表によれば、「パレスチナに対する戦争犯罪を終わらせる必要性」について合意したという。
結論
イランはイギリスによって始められたパレスチナの状況に決着を付けることを考えているのかもしれない。イランが参戦できるとすれば、それはやはりタリバンにも勝てなかったアメリカの凋落が原因だろう。
イスラエルは最近ガザ南部への給水を再開すると発表した。イスラエルが国連にまで非難されているので、アメリカが促したのだろう。イスラエルは国際法も国連も無視できるが、自分を作っているアメリカは無視できない。
だが促されなければそうしない人間が、次の場面でパレスチナ人をどう扱うかは明白である。そしてイランはそれを知っている。
ダリオ氏はこう予想している。
このイスラエルとハマスの戦争がイスラエルとガザ地区だけに留まる可能性は低い。そしてこの戦争はどちらかが完勝するまで続く可能性が高い。
アメリカはどうするだろうか。参戦すればついにアメリカ自身が戦争に参加することになる。しかしアメリカには金がない。ウクライナとイスラエルの両方に資金供給を続けることが出来るだろうか。ただでさえ米国債には売り圧力がかかっているのである。
いずれにせよ、アメリカが戦争をコントロールできる時代はとうに過ぎている。そしていずれ、ベトナム戦争や朝鮮戦争で自国では戦争せずに他国を戦場にすることができたアメリカも、戦争を自国本土から遠ざけておくことが出来なくなるだろう。
アメリカ本土が戦場になる日はそう遠くないだろう。この戦争でそうならなかったとしても、いずれそうなる。以下の記事で予想しておいた通りである。