まるで本職のアナリストのような発言だが、これは2016年のアメリカ大統領選候補、ドナルド・トランプ氏の株式市場に対する見解である。CNBC(原文英語)が報じた。
ここの読者であれば、トランプ氏の相場観がわたしやジョージ・ソロス氏、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏など、バイサイドの専門家の相場観とかなり近いことにやや驚いたのではないかと思う。
恐らくは、トランプ氏と親しいヘッジファンド運用者カール・アイカーン氏らの相場観が反映されているのだろう。別にトランプ氏自身は株式市場が専門でも何でもないが、少なくとも何処に意見を聞けば良いのかを知っているということである。金融市場について何も知らない経産省の役人しか聞く相手の居ない安倍首相とは大違いである。
低金利が作り上げた株式バブル
トランプ氏はバブルの原因として中央銀行の生み出した低金利を挙げる。「Fed(連邦準備制度)が作り上げた低金利の環境は、アメリカの株価を金融危機後の安値から227%も押し上げた」と主張した。米国株は金融危機前の高値から見ても38%上昇している。
上記のヘッジファンドマネージャーらの見解と呼応するように、トランプ氏は「金利が上がれば、その時にわれわれが目にする光景はあまり美しいものではないだろう」と続ける。伊勢志摩サミットでリーマンショック再来の根拠に商品市場の価格変動を持ち出した安倍首相とは違い、トランプ氏は金融市場の現状を確かに理解している。
そしてそれは政治家としてはかなり稀有な素養である。金融市場を理解した政治家など歴史上ほとんど一人もいなかったのではないか。
ロイターが報じていたように、トランプ氏は1月にも米国市場はバブルだと主張し、「バブルが崩壊するなら、私が大統領になる前にして欲しい。就任の翌日に起こるのであれば、前日の方がまだましだ」と述べていた。笑ってしまうほど現金な発言だが、何の根拠もなく経済は上手く行っているとする現職の政治家よりはよほどまともだろう。
2016年にトランプ氏が出馬した意味
わたしは別にトランプ氏を支持しているわけではないが、トランプ氏は現状の政治家の腐敗があまりに酷いレベルに達したために出現するべくして出現した政治家であり、彼自身や彼の発言を批判することにはあまり意味がない。本題はトランプ氏ではなく、トランプ氏が支持された背景にあるからである。
彼は既存の政治家のみならず、様々な国際機関を軒並み批判している。彼はイギリスのEU離脱を支持していたし、WTO(世界貿易機関)が彼の保護貿易政策を妨害するならばアメリカはWTOを脱退するとしている(AFP)。
現代の日本人は国連などの国際機関を無条件で信用しがちだが、実際にはこうした組織は主要国の政治家が自分の意見を国際的に押し通すために作られたものなのである。一部の国では徐々に国民がそうした組織の本性に気付きつつあり、その結果イギリスはEUを離脱し、アメリカではトランプ氏のような政治家が支持されるのである。
トランプ氏や移民政策反対派にレイシストのレッテルを貼り、反グローバリズムを声高に糾弾する集団が何処の誰なのかを日本国民はしっかりと見ておくと良い。まさにそこが利権の在り処だからである。