スタグフレーションの匂いがする9月の米国インフレ率

さて、お待ちかねの最新9月分のアメリカCPI(消費者物価指数)が発表された。アメリカのインフレはどうなっているだろうか。

内訳を見なければ分からないインフレ率

まずは全体のインフレ率の数字から確認しよう。9月のインフレ率は前年同月比で3.7%となり、前月から横ばいとなった。

前年比の数字は比較対象となる前年のこの時期の原油価格が下落傾向にあることから、高めに出てもおかしくないと思っていたが、その割には落ち着いた数字になったと感じている。

だが、それは全体の数字だけを見た場合の話である。今回のCPIデータは内訳を見るとやや波乱の内容となっていることが分かる。

意外にも減速したエネルギー

内訳を見てゆこう。ここからは直近の変化率を見るために前月からの変化率が1年続けばどうなるかを示した前月比年率で見てゆく。

まずはエネルギー価格のインフレだが、エネルギーのインフレ率は19.9%となり、前回の91.9%から減速した。

エネルギー価格は変動が激しいので数字よりもチャートを見た方が良いだろう。去年半ばからゼロ近辺を這っていたエネルギーのインフレ率は前月に大きく上がったが、今月は減速となっている。

エネルギー価格に影響を与える原油価格は次のように推移している。

原油価格は長らく横ばいとなっているため、毎月のインフレ率の急な変化を気にしすぎても仕方がないだろう。8月のインフレ加速がむしろ妙だったのであり、9月に減速したことで「やや上昇気味」という感じの原油価格チャートと釣り合いが取れている。

重要なのはむしろ、ハマスによるイスラエル攻撃のリスクをほとんど織り込んでいない原油価格の動きが果たして正しいのかということだろう。これで良いのか。

加速した住宅インフレ

だが今回は原油価格にばかり時間を割いてはいられないので、住宅の話に移ろう。住宅関連のインフレ率は7.3%となり、前月の3.7%から加速した。

この動きは住宅価格が減速した後再加速している状況と一致している。

ケース・シラー住宅価格指数のインフレ率は次のように推移している。

住宅のインフレ率は住宅価格だけではなく家賃なども含んでいるので、基本的に住宅価格よりも遅延する。家賃には契約更新の時まで住宅価格が反映されないからである。

住宅価格が加速後にやや減速していること、そしてその原因が住宅ローン金利の高騰であることを考えれば、金利が高止まりする限り住宅インフレも減速を続けると考えて良いだろう。

加速したサービスのインフレ

最後にサービスだが、加速している。これは驚いた。

驚きはしたが、やはりこれも一時的なものだと筆者は考えている。

まず、サービス業の主な原価であるところの賃金のインフレは以下のように減速している。

あとは需要が弱まればサービスのインフレも弱まるが、賃金が減速しているということは消費者の資金源が減速しているということなので、労働市場が弱まれば消費も弱まらざるを得ない。

だからサービスのインフレも長期的には減速するだろう。

結論

結果として、食品とエネルギーを除くコアインフレ率は3.9%の上昇となり、前月の3.4%から小幅な加速となった。

しかし長期的な減速トレンドを抜けているとは言えない。

とはいえ、やはり内訳にはインフレの根強い気配を見て取ることが出来る。一方で、失業率などの指標を見る限り、アメリカの実体経済は確実に減速している。

実体経済が減速する一方でインフレが根強いとなれば、やはり景気後退とインフレが同時に起こるスタグフレーションの気配がしてくる。最近、何人かの専門家が言及していた。

インフレは高止まりするが景気は減速する2024年が近づいている。

それに加えて中東情勢が不穏な様子となっている。それぞれのリスクに備えたポートフォリオにしておきたいものである。