チューダー・ジョーンズ氏: 金融市場はイスラエルリスクを過小評価している

1987年のブラックマンデーを予想したことで有名なポール・チューダー・ジョーンズ氏がCNBCのインタビューで、先週末に始まったハマスによるイスラエル攻撃と、金融市場の反応について語っている。

ハマスによるイスラエル攻撃

ジョーンズ氏は先週末に起こったガザを支配するハマスによるイスラエル攻撃について次のように述べている。

イスラエルのことは大きな悲劇だが、より大きな地政学的文脈のなかでこれを捉える必要がある。

ジョーンズ氏は次のように続ける。

4つの核保有国が問題となっており、その内3つは反社会的人間が率いている。中国とロシアと北朝鮮だ。これらの国の指導者は自分以外のことはまったく気にかけず、人間性を微塵も持っていない。これらの国では敵味方問わず人が失踪する。

そして4つ目のイランは神が自分に語りかけていると思っている人間によって率いられている。

アメリカ人であるジョーンズ氏は4つの核保有国を挙げたが、歴史上核兵器を実際に使った唯一の国のことをお忘れのようだ。だがジョーンズ氏が今考えているのはイランのことである。

イランとパレスチナ

この状況においてイランは重要である。何故ならば、イランはハマスを支えてきた最大の国であり、今回の攻撃に直接関与したことは否定しているが、ほとんど何の産業もないガザに閉じ込められたハマスの資金の多くはそもそもイランから来ているので、イランは無関係ではない。

イランについてジョーンズ氏は次のように批判している。

イランの指導者は、恐らく史上最も優秀な人々によって形成された国を地上から取り除きたいと公然と言い放った。

イランは、第1次世界大戦以来イギリスとアメリカによって人工的に作られた国であるイスラエルを嫌っている。パレスチナには1918年にはアラブ人が70万人、ユダヤ人が6万人住んでいたが、イギリスによる統治とその後のアメリカの支援によって地域のほとんどはユダヤ人の国であるイスラエルの領土となり、アラブ人の居住地域はその中の飛び地に押しやられている。

だから中東の人々はほとんどパレスチナに同情的である。自国の領土内にいきなりイギリスとアメリカが作った国が出来上がり、自分たちが隅に追いやられたらどう思うかを考えれば当たり前である。そして中東の国々はそれが他人事でないこと、アメリカがそれを本当にやる国であることを身をもって知っている。

イランはイスラエルに対して公に敵意を表明している。アメリカとも親しい関係にあるサウジアラビアは、アメリカの仲介でイスラエルとの国交正常化を目指していたが、以下の記事の通りこの一件ではパレスチナ寄りの声明を出している。

金融市場の反応

この一件に対する金融市場の反応はどうだったか。ジョーンズ氏はこう述べている。

週末の出来事に対する市場の反応がどうだったかと言えば、普通の反応だった。リスクオフではあったが、この事態がどれだけ悪化し得るかを少しでも織り込んだものではなかった。

米国株はどうなったかと言えば、次のようになっている。

米国株は最初は下落で反応したが、その後むしろ上昇している。

株式市場がこのように反応していることについてジョーンズ氏はこう分析している。

その理由は、われわれがこうしたリスクに疲弊してしまっているからだろう。

しかしそれは、何かより悪いことが起これば、今後市場が普通ではない反応を示さないということを意味しない。

今のところ、市場は慣れてしまっており、恐らくそれは間違っている。

ジョーンズ氏は市場がハマスによるイスラエル攻撃のリスクを過小評価していると言う。何故か。彼はこう続ける。

本当に状況が悪化するのは、イランとイスラエルが直接戦争になる場合だ。そうなれば事態は本当に悪化することになる。第1次世界大戦のような、すべての国が参戦してくる状況になる可能性がある。

問題は、ハマスの攻撃がヒズボラのようにイランによる代理戦争だったのか、それともイランは単に同盟国だったのかということだ。それによってイスラエルの対応は異なる。それは最終的にイスラエルが決めることになる。

ハマスはこの攻撃はイランに支持されていると言っている。イランは否定している。

イスラエルのガザ包囲

だが、イスラエルのガザ包囲を受けて、イランの態度も変わっているように見える。

イスラエルによって狭い地域に追いやられているガザは、イスラエルが電気や水などを供給しているのだが、ハマス(必ずしも全ガザ市民が支持しているわけではない)の攻撃によってイスラエルは水や電気の供給を止めることを決定した。イスラエルのガラント防衛相は次のように述べている。

イスラエルはガザに対する完全包囲攻撃を決定した。電気も食料も燃料も水もない。すべては封鎖される。われわれは獣人と戦っており、それを前提に処理する。

この結果、200万人以上のガザ市民が餓死の危険に晒されており、病院も機能不全となっている。これに対して国連人権高等弁務官は次のように警告している。

民間人は、それを望むならば包囲された地域から脱出することを許されなければならない。あらゆる制限は軍事上の必要性によって正当化されなければならず、そうでなければイスラエルの行動は集団的処罰に該当する可能性がある。

集団的処罰は国際人権法上明確に禁じられており、戦争犯罪となる可能性がある。

だがイスラエルは気に留めていない。イスラエルの理屈では、200万の獣人には人権は適用されないということだろう。

ジョーンズ氏の投資判断

個人的には、こうした状況を見てイランは考慮を重ねているように見える。レバノンに拠点を置いているヒズボラは、最初は傍観していたが断片的な報道によるとどうやら参戦したらしい。イスラエルが報復としてレバノン領内に攻撃している。戦火が他国へと広がっている。

ヒズボラとイランは連絡を取り合っているだろう。ジョーンズ氏は次のように言っている。

個人的には、イスラエルとイランの間での結論が何かを見届けるまで、わたしが株式などリスク資産に投資をするかどうかは疑問だ。

イスラエルは何らかの形で結論を出す。彼らがこの攻撃はイランに責任があると決定するかどうかは、おおごとだ。事態が本当に酷い状態に悪化する可能性がある。

だが筆者はむしろ、イスラエルが結論する前にイランが動く可能性を考えている。

イランのライシ大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子が45分の電話会談を行なったようだ。イラン側の発表によると、「パレスチナに対する戦争犯罪を終わらせる必要性」について合意したという。

イランが介入するつもりであれば、この電話会談でサウジアラビアに許可を取っただろう。サウジアラビアはイランに比べて穏やかなトーンを崩していないが、引き続きパレスチナへの支持は明確にしている。

イランが動けば、アメリカはどうするだろうか。中東人はイギリスとアメリカが始めた状況にいよいよ終止符を打とうとしているのかもしれない。この状況は多くの人々の予想よりも悪化する可能性がある。