DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がFox Businessnのインタビューで最近の米国株の下落の理由と今後の見通しについて語っている。
近づく決算シーズン
9月が終わり、次第に第3四半期の決算が発表される時期となる。株式市場にとっては言うまでもなく重要な期間なのだが、それについてガンドラック氏は次のように述べている。
決算シーズンを通過するにつれて、市場のムードがどうなってゆくかを観察するのは有益だ。
いつものことだが、決算シーズンになると途端に皆が「金利が高いから」「エネルギー価格が高いから」と言い始める。
高金利の問題も原油価格上昇の問題も元々あったのだが、決算シーズンに悪い決算が出てくると、いきなり人々は元々あった悪材料に注目し始める。
だが悪材料は元々あったものだ。だから決算が悪いと、株価には二重で悪材料になる。1株当たり純利益が下がること自体が悪材料である上に、株式市場がこれまで平然と無視していた悪材料(例えば金利上昇)を何故かいきなり織り込み始めるからだ。
これは2021年にインフレの脅威を何の根拠もなく無視し続けたFed(連邦準備制度)のパウエル議長に似ている。
だがパウエル氏も株式投資家も知能の水準は同じようなものなのである。だから見ようと思えばずっと目の前にあったはずの脅威を無視し、危険が本当に差し迫って始めて騒ぎ始める。
2018年に金利が高騰した時の株式市場もまったく同じだったことは、ここでは何度も言及している。当時も株式市場は高金利の脅威を一定期間無視していた。
だから株式市場のムードを見ておくことは重要である。そしてガンドラック氏は現在の市場について次のように述べている。
人々のムードは落ち込みつつあるように感じる。そしてそれが空高く上がっている株式のバリュエーションとぶつかる。
株式市場が揺らいでいる理由
決算シーズンがまだだというのに、株式市場のムードは悪くなっている。
それは何故か。ガンドラック氏はまず、株価が何故現在の水準まで上がったのかを説明する。
だがバリュエーションが空高く上がることができたのは、金利がゼロだったからだ。だがゼロ金利はもうない。
今や企業はローンに対して3倍か4倍の金利を支払っている。あるいは銀行危機のせいでもはやローンを受けられない企業もある。クレジットカードの金利も上がっている。
株価は以下の計算式で計算される。
- 株価 = 1株当たり利益 x 株価収益率
低金利によって企業利益も底上げされることに加え、低金利の時代には株価収益率が上がる。低金利時代の株高はこの式によって肯定される。
だが、何度も言っているが、低金利はもうない。ジョージ・ソロス氏が著書『ソロスは警告する』でリーマンショック前に次のように書いたのと同じ状況である。
住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。
当時の言葉で言えば、住宅バブルは終わっていた。今の言葉で言えば、低金利バブルはもう終わっている。だが人々はまだ踊っている。
金利上昇が経済にもたらす影響
金利は実際、どのようにして実体経済に影響を及ぼすのか。
一番分かりやすいのは利払いの増加である。そして実体経済に一番大きな影響を及ぼすのは、発行残高が一番巨額な国債だろう。
だがそれは金利を5%台まで上げたからと言って、急に実体経済に影響を与えるわけではない。コロナ前の低金利の時代に発行された低金利の債券については、今でも低い金利を支払うだけだからである。
だが、借金にはいずれ期限が来る。そして借り手は今の高い金利で借り換えることになる。ガンドラック氏は次のように説明している。
3年物国債や5年物国債のように、3年以上前に行われた借り入れは、0.5%かそれよりも低いような金利のままいまだに存在している。それが借り換えの時には5.5%になる。5%の金利上昇だ。
高金利を十分に続ければ、33兆ドルの国債に対して利払いは1.7兆ドル増える。年間1.7兆ドルだ。これは物凄い数字だ。
アメリカのGDPは27兆ドルなので、1.7兆ドルはGDPの6%である。これは利払いの増加分だ。すべての国債が今の高金利で置き換えられれば、それだけでリーマンショックの倍ほどのダメージをアメリカ経済に与える。
半分でもリーマンショックと同じ規模である。それが5%台の金利の意味である。
そして利払いが消費を侵食してゆく。ガンドラック氏はこう続けている。
金利が今の水準に保たれ続ければ、利払いなど不可避の支払いの他にはもはや資金が何も残っていない状況にいずれなるだろう。
株価下落の理由
ただ、この借り換えは徐々に行われてゆく。債券には3年物や5年物など様々な期間があり、期限が来たものから借り換えられてゆく。
ガンドラック氏は次のように補足している。
これには人々が思うよりも長い時間がかかる。だがもう金融引き締めが1年半続いており、もうすぐ2年になるが、Fedは6月や7月に見られたような株式市場の緩和転換期待には応えないという決意を何度も明確に表明している。それで株式市場はバリュエーションの見直しを迫られている。
ガンドラック氏によれば、それが最近の株価下落の理由だということだ。米国株は次のように推移している。
米国株は今後どうなるか。株価の計算式をもう一度掲載しよう。
- 株価 = 1株当たり利益 x 株価収益率
ガンドラック氏は次のように予想する。
景気後退になれば、現在のような株価収益率を保つことは極めて難しくなるだろうし、利益も恐らく下がるだろう。
利益と株価収益率が下がれば株価はどうなるか。もう少し具体的な計算については以下の記事で行なっているので、そちらも参考にしてもらいたい。
ソロスは警告する