世界最大のヘッジファンド: 株安の原因となっている長期金利上昇には大幅な上昇余地がある

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログでアメリカの長期金利について語っているので紹介したい。

長期金利上昇

アメリカでは長期金利が上昇している。それが株安の原因になってもいる。アメリカの長期金利は次のように推移している。

金利が上がれば上がるほど株式には不利になる。国債を買えば理論上無リスクで4%台の金利が得られるのだから、株式はそれ以上の魅力を提供しなければ買い手を集められない。

リーマンショック以後ゼロ金利に慣れてしまった金融市場には4%台の金利は高い。だがダリオ氏はそれでも低すぎると考えているようだ。彼は次のように述べている。

長期の国債については、インフレ率の見通しよりも1.5%から2%高い金利が欲しい。インフレ率見通しは、わたしはおよそ3.5%だと考えている。

市場の期待インフレ率は2.4%だから、ダリオ氏はそれよりも高いインフレ見通しを考えているようだ。

これらの数字を足し算すれば、ダリオ氏が要求する長期金利の水準が得られる。ダリオ氏はこう続ける。

だからそうした要因だけ考えれば、わたしが国債を保有したいと思えるためには5%台前半の金利が必要だ。だが残念ながら要因は他にもある。

更に上昇余地のある長期金利

インフレ率とそれを考慮した金利水準を考えれば、5%台前半の金利が必要だとダリオ氏は言う。

上記のチャートを見て分かる通り、それは株価下落の原因になっている現在の長期金利の水準よりもかなり高い。

だがダリオ氏はそれでも足りないと言う。彼は理由について次のように述べている。

政府の財政赤字が大きいために米国債の供給量の見通しは多く、一方で需要の見通しは低い。

ダリオ氏は長らく国債市場の需給問題に言及していた。莫大な(日本に比べれば少量の)借金を抱えたアメリカ政府が国債を大量発行しなければならない一方で、これまで買い手だった中央銀行は国債の保有量を減らす量的引き締め政策を行なっている。

では米国債を誰が買うのかという問題である。国債の価格下落は金利上昇を意味するので、十分な買い手がいなければ金利は上がってゆく。

ダリオ氏は次のように続ける。

海外の銀行や中央銀行やその他の買い手は米国債で酷い損失を抱えており、しかも彼らはアメリカで政治的、社会的、経済的に何が起こるのかを懸念している。

インフレで金利が上がったため、言い換えれば国債の価格は大幅に下がったのである。例えば国債を大量に抱えていたシリコンバレー銀行は、保有国債の価格下落が一因となって倒産した。

だがそれはシリコンバレー銀行だけの話ではない。米国債を抱える世界中の銀行が同じ状況に陥っている。そしてそれは中央銀行でさえも例外ではない。ダリオ氏は金利上昇で中央銀行さえも破綻の可能性があるということを以下の記事で説明していた。

米国債から逃避する海外勢

だが、国債の保有者が抱える含み損だけが、投資家を米国債から遠ざけている要因ではない。ダリオ氏はアメリカ国外の投資家や中央銀行が米国債を避けている政治的理由を指摘している。

一部の海外の米国債保有者は「制裁」されるのではないか、つまり米国債を彼らが使用できる別の通貨に両替できなくなるのではないかということを心配している。

何故か。ウクライナ情勢以降、米国がドルを使った経済制裁を武器として振り回し始めたからである。

制裁を受けたロシア自身がドル資産を避けるのは当たり前の話だが、問題は米国が対ロシア経済制裁に賛同しなかった中立国に制裁をちらつかせて対ロシア戦争に参加させようとしたことである。

中国やインドやブラジルやハンガリー、あるいはアフリカ諸国など、アメリカとは無関係の国々はウクライナを代理とした欧米とロシアの戦争になど関わりたくなかった。

日本人の多くはウクライナ戦争は2022年に突然始まったと思っている。だが戦争は突然始まるものではない。メディアの言うことを鵜呑みせず、そこで何かがおかしいと思わなければならない。

ウクライナの歴史を何も知らない日本人とは違い、これまでの経緯を知っている中立の国々にとっては、この問題は2014年にウクライナで欧米の支持した暴力デモ隊が当時の親露政権を追い出したことから始まっている。

その後、ウクライナ政権はアメリカの補助金漬けとなった。

だから無関係の国々は日本人のように、アメリカの補助金漬けとなって何年も反ロシアキャンペーンを行ないロシアとの無用な対立を引き起こした挙げ句、何の罪もないウクライナ国民をアメリカの都合で対ロシア用の尖兵として強制動員しているウクライナ政権が善だなどとは一切考えていない。

それはもはや欧米でも主流派となりつつある。近隣のポーランドの首相は最近「ウクライナに武器供与しない」と発言して西洋の政治界を騒がせた。ちなみにポーランドはウクライナにミサイルを落とされている。

スロバキアではウクライナへの軍事支援に反対する政党が支持率首位となっている。

それはウクライナの政治家の支援国に対する態度の結果でもある。何も気付かずにメディアの偏向報道を鵜呑みにしているのは日本人くらいである。

ここまで書けば、対ロシア戦争に協力しないならドル資産を凍結すると言われた時の中立国の対応は、もう言わなくとも分かるだろう。

結論

そうした事情が米国債の価格を下げ、金利を上げている。

ダリオ氏と同じように、筆者も今回の米国債下落と長期金利上昇は根が深いものだと考えている。以下の記事では株価と関連して説明している。

そして金利上昇は株価を下落させるだろう。

ちなみにダリオ氏が米国株をどうしているかと言えば、これについても既に報じているのでそちらを参考にしてもらいたい。しかしダリオ氏の言うように、長期金利が5%や6%になれば株価はどうなってしまうだろうか。