引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の自社の動画配信におけるインタビューである。今回はインフレと中央銀行について語っている部分を紹介する。
インフレと銀行と中央銀行
インフレで銀行が破綻した。シリコンバレー銀行などのアメリカの銀行は、インフレによる金利高騰で倒産に追い込まれた。
金利高騰で銀行が潰れた1つの理由は、保有する国債価格の下落である。金利上昇は債券にとって価格下落を意味するため、金利が上がれば債券は下落する。
銀行は預金者からお金を預かってその金で国債を買う。その国債の価格が下落し銀行が損失を被ったわけだが、ここで読者は気付くはずである。国債を大量に保有しているのは、普通の銀行だけではない。
ダリオ氏は次のように語っている。
中央銀行は皆、保有債券に大きな損失を抱えている。そしてそれがどのように処理されるかによって、財政上の問題が発生する。
中央銀行は、日本などの多くの先進国では国債の最大の保有者となっている。そして金利上昇によりその国債価格が下落するときに含み損が発生する。
中央銀行の損失は通常政府によって補填されなければならない。含み損を損失とみなすかどうかは財政というよりは法律の問題だが、例えば国債を売ることになれば含み損が確定損になり、また金利高騰で中央銀行が被る損失は債券価格下落だけではない。
金利上昇のもう1つの問題
アメリカで銀行危機が起こった原因はもう1つあった。銀行は預金者から預金を預かって国債を買っている。金利上昇で国債価格が下落した一方で、預金者には高い金利を払わなければならなかった。
つまり、金利上昇が銀行にとって2つの意味で打撃となったのである。
そして中央銀行といえどもお金を預かる業務を行なっている。預金者は市中銀行である。
だから金利、特に短期金利が上がれば、中央銀行は銀行に高い金利を払わなければならなくなる。銀行が苦しんでいる二重の問題が中央銀行にもそのまま襲いかかるわけである。
しかも、金利の支払いは、含み損のように会計上の問題ではない。金利を支払うためにはお金を何処からか持って来なければならない。そして実際にその問題に陥っている国が既に存在する。ダリオ氏はこう述べている。
例えばイギリスでは、イングランド銀行がGDPの2%に相当する損失を補填しなければならなかったので政府に補填を頼んだが、政府はお金を借りなければ補填できない。
だが政府の財政は中央銀行の紙幣印刷でもっているのではなかったか。中央銀行が政府の足を支え、その政府が中央銀行の足を支えることで空中浮遊をする世界が実現しつつある。オウム真理教か。
そしてドイツも同じ問題に直面していることは、以下の記事で報じておいた。ドイツでは中央銀行の財政問題で実際に利払いが停止されている。
ダリオ氏は次のように纏めている。
だから、この状況における古典的な結末は、歴史上いつでも起こってきたように、中央銀行自身が財政上の困難に陥るということである。
だが読者はこう思うだろう。中央銀行には紙幣を印刷して利払いを行なうという選択肢もあるのではないか。
その通りである。だが紙幣印刷は要するに量的緩和である。そして今、中央銀行はインフレが起こったことによって量的緩和の撤回と、その逆回しである量的引き締めを強いられている。そうしなければ、インフレが収まらないからである。
その状況下で利払いのために中央銀行が紙幣印刷を強いられるようなことになればどうなるか? 物価上昇はもはや止まらなくなるだろう。
結論
インフレを良いものだと何の根拠もなく主張したアベノミクス以来のリフレ論者は、まだ絶滅していないのかどうかは知らないが、それでも中央銀行が破綻することなど有り得ないと考えている。
しかしもはやそれさえも間違っている。ダリオ氏はこう述べている。
われわれは中央銀行の財政が問題になるわけがないと思っているが、それは間違いだ。損失が発生すれば何処からか補填しなければならない。そして中央銀行は更にお金を印刷する必要に迫られるが、それが更に問題を悪化させる。
そしてダリオ氏によれば、インフレと現金給付の時代となった現代、歴史上何度も起こってきた中央銀行の破綻という問題が近づきつつある。
ダリオ氏はこう説明している。
注意して見なければならないのは、中央銀行が再び量的緩和を再開する時だろう。それはレッドフラグだ。