アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、All-in Summitでアメリカのインフレについて語っている。
再婚とソフトランディング
サマーズ氏は珍しくも話を大喜利から始めている。彼は次のように言っている。
ソフトランディング期待については、サミュエル・ジョンソンが再婚について言ったことと同じことが言える。両方とも希望的観測が経験に押し勝っている。
ほとんどブラックジョークだが、人々は希望にすがりたがるものである。だがサマーズ氏は以下に紹介したBloombergのインタビューで、景気後退の前には「ソフトランディング」の文字が入った記事が急増し、しかも景気後退は避けられた試しがないというデータを掲載していた。
何故そう言えるのか。サマーズ氏は次のように説明している。
インフレ率が4%より高く、失業率が4%より低い状態で、米国経済が景気後退にならなかったことはない。
インフレは失業率より先に推移する。インフレが高く、失業率が低い状態から金融引き締めでインフレを下げようと思えば、経済を弱めて失業率を上げるしかないのである。この点についてはフリードリヒ・フォン・ハイエク氏が説明している。
ソフトランディングはあるか
だが、「しかし実際にインフレ率は下がって経済はそれほど減速していないではないか」と人々は言うだろう。
しかしそういう人々に対してサマーズ氏はこう言う。
「もう大丈夫だ、インフレはもう心配する必要がない、インフレ率は9%だった、今は3%半ばだ、インフレは制御できた、無事解決だ」と言う人々は、自分が何を喋っているのかさえ理解していない。
何故そう言えるのか。サマーズ氏の目から見れば、インフレはそもそも大して変わっていないのである。サマーズ氏はこう説明している。
インフレ率は元々、変動の大きい要素を除けば8%や9%になったことなどなかった。元々5%程度だった。中古車や航空券やガソリンなどの変動の激しい要素によって一時的に押し上げられただけだ。
そうした要素が急速に値上がりして、インフレは基調としては5%程度だったが全体では8%になった。そしてそれらの要素の価格が下落して、基調は4%か5%に留まる一方で今全体のインフレ率はそれよりも低くなっている。
現在、アメリカのインフレ率は3.7%である。
結論
だから、サマーズ氏によればインフレ率はまだ大して下がっていない。原油や中古車などの価格などが上がって下がったことが趨勢に大きく影響している。そしてより悪いことに、原油価格が上がっている。
サマーズ氏によれば、まだインフレ退治は何も終わっていない。サマーズ氏はこう述べている。
インフレの基調が実際どうなっているかを計ると、基調としては多少、0.5%か1%ほどは下がったかもしれない。それはわたしの予想よりも大きい下落幅で、間違いなく良いニュースだ。だがここからソフトランディングまでは長い距離がある。
筆者はサマーズ氏とは多少異なる見方をしているが、結論は同じである。インフレは収まりつつあるが、景気後退が始まるのはインフレが終わってからである。ハイエク氏の説明している通りである。
また、原油価格の上昇は現在ほぼ唯一のインフレ的要素だが、ヘッジ可能である。
原油価格については追加で記事を書くべきことがあるだろう。
また、最初の大喜利についても付け足しておく情報がある。サマーズ氏は再婚している。