前回に引き続き、Frankfurter Allgemeineによる著名投資家ジム・ロジャーズ氏のインタビュー(原文ドイツ語)をお伝えする。話題ごとに記事を分けて訳している。前回はロジャーズ氏の金価格に関する相場観をお伝えした。
今回は米国利上げである。ロジャーズ氏の意見を順に見てゆこう。
利上げも低金利も懸念対象
ロジャーズ氏は以下のように始める。
投資家には大いに心配すべき事柄がある、そして利上げはその一つだ。Fedはいつでも金利を上げたい時に金利を上げるだろう。ただ、9月の会合はアメリカの大統領選挙に近すぎるため利上げはないだろうと思う。
ロジャーズ氏はかねてよりFedの金融政策に批判的であり、それは今回のインタビューでも変わっていない。
ベン・バーナンキがFedを率いていた頃から、ジャネット・イエレンはFedのなかでも学者よりのグループに属していた。それも問題の一つだ。
ジャネット・イエレンは何も分かっていない。彼女は壮大な学術実験を行っている。そしてそれは悲惨な結果を産むだろう。年金基金は縮小し、保険会社は預かり金に対して何もリターンを得られない。
低金利がもたらす年金基金や保険会社への悪影響には、以前より指摘されてきた。債券投資家のビル・グロス氏などはより踏み込んで低金利の抱えるリスクを指摘している。個人的にはすべてに同意できるわけではないが、一考に値する指摘が並ぶ。
ロジャーズ氏はこのような現状について次のように続けている。
数年もすれば政治家は自問するだろう。「何故われわれはこのような混乱のなかにいるのか?」。そしてその時、彼らはFedが原因だと知るのだ。
では利上げは悪ではないのか?
低金利が悪なのであれば、では金利を上げれば良いのか? しかしロジャーズ氏自身が以前、利上げが市場を崩壊させることを指摘している。
一度目の利上げは大した意味を持たないが、三度目の利上げからは心配しなければならなくなるだろう。三度か四度利上げが行われれば、通常株式市場は終わりだ。
では中央銀行はどうすれば良いと言うのか? 彼らは、あるいは世界経済は既に八方塞がりなのである。
中央銀行家の苦悩
「イエレン氏はただの学者で何も分かっていない」というのはロジャーズ氏の口癖だが、イエレン氏に限らず、中央銀行家にしかるべき能力がないというのは今年に入ってからの市場の混乱の一因である。
例えば、元財務官僚の黒田総裁が率いる日銀は、相場の機微が分からず追加緩和を無駄打ちしている。
7月29日、黒田総裁率いる日銀は、政策決定会合でETFの買い入れ額を増額する追加緩和を決定した。結果発表の少し前に「政府の強い要請を受けて追加緩和を検討」などと報じられた辺りから、やってしまうのではないかと思っていたが、やはりやってしまったようである。
ドル円などは黒田総裁が無用に市場を期待させて、しかも何も有効な手段を取れないため、失望売りが嵩んでいる。ロジャーズ氏の批判するイエレン氏も、黒田日銀に比べればよくやっている方だろう。
Fedの何が悪いのか?
Fedの何がそれほど悪いのかと聞かれ、ロジャーズ氏は以下のように答える。
ただ債務を見ればいい。2008年にFedが保有する国債は8000億ドルだった。それが今では5兆ドルになっている。たった8年で6倍だ! ECB(欧州中央銀行)や日銀も何も変わらない。彼らは一つのこと以外何も考えていない。紙幣を刷ること、紙幣を刷ること、そして紙幣を刷ることだ。
そして紙幣を刷った先には何が起こるのか? ロジャーズ氏の予想は極めて悲観的である。以下の記事ではロジャーズ氏が量的緩和相場の行き着く先について語っている。
一方で、識者の中には量的緩和を支持する論者もいる。ジョージ・ソロス氏の主宰する研究所で上級研究員を務める元イギリス金融庁長官のアデア・ターナー氏などである。
現在の市場の最大の問題は、こうした相反する主張の両方が正しいことである。どちらに行っても地獄であるならば、世界経済はどうすれば良いのか。
非常に悲しいことだが、投資家にだけはこうした状況でも生き残るすべが残されている。しかし投資家だけ生き残ってどうすると言うのか。非常に気の重いことである。