グロース氏、ガンドラック氏のファンドをラトビア並みのサイズと呼ぶ

かつて債券王と呼ばれ、世界最大級の債券ファンドPIMCOを創業し今では引退しているビル・グロース氏が、現在債券王と呼ばれることの多いDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏に噛みついている。

ガンドラック氏に噛みついたグロース氏

事の発端はかつて債券王と呼ばれたグロース氏が、現役で活躍するガンドラック氏が今の債券王の名に相応しいかを聞かれ、次のように答えたことである。

そもそも債券王なり債券女王なりになるためには王国が必要だ。PIMCOは2兆ドルを運用していたが、DoubeLineは550億ドル程度だろう。

それは王国ではない。ラトビアかエストニアぐらいだろう。

いきなり辛辣な言葉を述べたので多くの人が驚いた。グロース氏は今では引退している。自分の創業したPIMCOを会社の揉め事で2014年に追い出された後、グロース氏はJanus Capitalでファンドを運用していたが、パフォーマンスが出ずに2019年に辞めている。

どうもグロース氏のガンドラック氏に対する因縁はPIMCOを追い出された時のことらしい。次のキャリアを考えていたグロース氏は一緒に仕事をすることを求めてガンドラック氏の家に行ったらしいのだが、ガンドラック氏の答えは芳しくなかったという。

だがガンドラック氏の方は気にしていないようだ。彼はCNBCのインタビューでグロース氏のコメントについて聞かれ、次のように答えている。

もう10年も業界を離れている人がいまだに自分の問題に煩わされているのは悲しいことだ。だが彼が元気でやっていることを祈っている。

PIMCOを追い出された後、グロース氏は離婚騒動や隣家との訴訟騒動などでニュースを賑わせている。

運用資産総額

また、DoubleLineの運用資産についてもグロース氏の指摘よりは大きいようだ。ガンドラック氏は自社の運用資産を1,000億ドル程度だとした上で、そもそもPIMCOのようなサイズにはなりたくないと述べる。彼はこう言っている。

今以上の資金を運用したいとも思わない。うちで最大のファンドを広告するのは12年前に止めた。ある程度以上の規模になりたくなかったからだ。

資金を2倍3倍に出来るような方法もあったがやらなかった。その方が仕事を楽しめ、自分がより幸せになるとは思わない。

これは恐らくグロース氏以外の多くの資産運用家が思ったことだろう。ヘッジファンドにとっては、サイズが大きいことは必ずしも良いことではない。

例えば世界最大の資産運用会社BlackRockの運用資産は10兆ドルで、レイ・ダリオ氏が運用するBridgewaterは1,243億ドルだが、誰もBridgewaterよりもBlackRockの方が偉大だとは思わない。

何故ならば、資金が大きければ金融市場の中で動けなくなってしまうからである。例えばヘッジファンドはそこそこの規模のファンドでも小型株の取引が難しい。自分のポートフォリオに対して意味ある量の株を買ってしまうと株数が枯渇し、自分の買いで株価が大幅に上がってしまうからである。

Bridgewaterもヘッジファンドとしてはかなり巨大な方で、個人的にはダリオ氏の一番の手腕は本来機動力が必要とされるヘッジファンド戦略に巨額の資金をきっちり落とし込んでいることだと考えている。

巨額の資金の意味するところ

また、ヘッジファンドにとっては、例えば株式や債券を大量に買い込んでしまうと結局は市場全体のパフォーマンスと同じになってしまうという問題がある。そしてポートフォリオが市場全体と変わらないならば、自分の取っている手数料の分、むしろパフォーマンスでインデックスに負けてしまう。

ガンドラック氏は次のように説明している。

大きくなれば最終的にはインデックスファンドと同じか、それ以下になってしまう。実際、グロース氏のキャリアの終盤では、パフォーマンスはインデックスを大きく下回っていた。

勿論、大きい資金を運用できれば、その分多く手数料を得られるだろう。だが、言うまでもないことだが、ファンドマネージャーの多くにとってはお金を得られるかどうかなどどうでも良いことである。

むしろ、金目当ての投資家は市場で勝つことができない。ここでこうして情報を公開していると、他人の投資アイデアを真似して自分も儲けようとしている人が数多くいることは認識しているが、まったくもって無駄なことである。他人のアイデアは考える材料でしかない。だが彼らにはそれが分からない。

ガンドラック氏はこう述べる。

400億ドルを運用しようが、4,000億ドルを運用しようが、自分にはまったく同じことだ。運用資産総額で物事を決めようとする考え方は奇妙に思える。

資金が大きくなれば、より多くの顧客を抱えることを意味する。より面倒が増える。そしてパフォーマンスが下がり始めるためにより成功できなくなってゆくだろう。

ヘッジファンドマネージャーはむしろ顧客など持ちたくないのである。だからジョージ・ソロス氏もスタンレー・ドラッケンミラー氏も自己資産だけを運用するファミリーオフィスに移行した。

「債券王」

ちなみに問題となった「債券王」の称号だが、ガンドラック氏は次のように述べている。

そう呼ばれたいと思ったことはないし、有難いと思ったこともない。意味すらも良く分からない。

そしてグロース氏にエールを贈っている。

彼が引退し、自分に対してもっと良い感情を持てるように祈っている。