加速した8月の米国インフレ率、原油価格上昇で物価上昇リスク

さて、世界中が注目しているアメリカの8月のCPI(消費者物価指数)統計が発表された。アメリカのインフレはどうなってゆくのか。

8月のインフレ率は加速

結論から言えば、8月はインフレ加速の月である。8月の前年同月比のインフレ率は3.7%となり、前月の3.3%から加速した。

だが前年の同じ月と比べる前年同月比のデータがここ数ヶ月加速に転じているのは、比較対象となっている前年のデータの推移によるものであり、インフレの今後を占う上ではあまり意味がないことは事前に記事で説明してある。

だからこのインフレ率反発は想定通りである。とはいえ、今回のインフレ率はエネルギー価格が大きく上がったことにより通常より大きく上がっていることも事実である。

だが、結局はインフレ率が長期的に何処に向かうのかが問題となる。そのためには、エネルギーも含めインフレの内訳を見てゆきたい。

エネルギー

まずはエネルギーのインフレ率だが、エネルギー価格は上下動が激しいので、数字そのものよりもグラフを見てもらおう。ここからは前年の数字に影響される前年同月比ではなく、前月からの変化率が1年間続けばどういうインフレ率になるかを表した前月比年率で見てゆく。

前月比年率で見たエネルギーのインフレ率は次のようになっている。

エネルギー価格が大きく動くことはままあることだが、それにしても大きく上がっている。

その理由は原油価格など金融市場におけるエネルギー価格の推移である。原油価格のチャートは次のようになっている。

最近の原油価格上昇の理由については以下の記事で解説しているが、これまでアメリカの金融引き締めで押さえつけられていた原油価格が、アメリカの景気減速により強い引き締めが出来なくなるシナリオが見えてきた途端、頭を飛び出してきたということになる。

この状況における原油価格上昇は重要である。原油価格とインフレ率、そしてアメリカ経済の関係についてはまた別途記事を書く必要があるだろう。

住宅

次に住宅である。住宅のインフレ率は3.7%となり、前月の4.3%から減速した。

住宅のインフレ率はここ数ヶ月加速に転じていたが、筆者はこれはいずれ減速するだろうと以前の記事で書いておいた。今回のデータはまさにそのようになっている。

何故そう予想したかと言えば、住宅価格が先に減速していたからである。住宅価格については以下の記事で解説している。

CPIの住宅要素は、住宅価格の他に家賃のインフレなどを含む。家賃は住宅価格の変動に基づいて契約更新時に更新されるので、住宅価格そのものよりも遅れて推移することが多い。

何故減速しているかと言えば、アメリカの長期金利高騰にともなって住宅ローン金利も上昇しているからである。長期金利上昇は実体経済にとっても金融市場にとっても厄介な問題になりつつある。

サービス

次はサービスである。サービス(エネルギー関連除く)のインフレ率は4.7%となり、前月の4.3%を上回った。

サービスのインフレは、全体のインフレ率が下がる中でもなかなか下がらず投資家の注目の的になっていた。

だがサービスのインフレ率も遂に下がった。ここ数ヶ月は反発しているが、心配には及ばないだろう。何故ならば、平均時給のインフレ率が次のように減速しているからである。

サービス業の主なコストは賃金であり、賃金が下がればそれにともなってサービス価格も下がる。サービスの需要が増えれば別だが、アメリカ経済はむしろこれから消費が減速してくる段階であり、そのシナリオは考えにくいだろう。

結論

ということで、全体の数字としてはインフレ加速となった8月のCPIだったが、長期的としてはインフレ減速トレンドを継続していると筆者は解釈した。

ちなみに食品とエネルギーを除くコアインフレ率は3.4%で、前月の1.9%から加速したが、やはり減速トレンドの範囲内に収まっている。

唯一気をつけなければならないのは原油価格の上昇である。それをヘッジ出来るようにウランを買い推奨に加えておいた。ウラン価格は大きく上昇している。

ウラン投資については中期的には来年のアメリカ景気後退に影響されるためヘッジが必要だと書いておいたが、逆にエネルギー価格上昇リスクをウラン投資でヘッジしておくことも必要なのである。

相反するポジションを重ねながらポートフォリオ全体で勝つというのがファンドマネージャーの仕事である。ジョージ・ソロス氏が著書『ソロスの錬金術』で言っていた以下の言葉を思い出したい。

1つの仮説にすべてを賭けるというのは、私にはめずらしい行為である。普通は、少なくとも部分的に矛盾する仮説に従って行動している。

原則として、妥当性を持つ仮説に基いてつくったポジションは手放さないことにしている。そして新しい仮説に基いて反対方向のポジションを追加する。その結果、調整する必要のある微妙なバランスを適宜調整できるようになる。


ソロスの錬金術