金利高騰による株価下落で米国経済ハードランディングの確率高まる

アメリカでは長期金利が上昇し、それが原因で株価が下落している。だが問題はそれだけではなく、この動きがアメリカ経済のハードランディングが近づいていることを示しているということである。

コロナインフレ後の長期金利

コロナ後の現金給付によって発生した物価高騰により、Fed(連邦準備制度)は2022年から大幅な利上げを強いられてきた。だが政策金利がゼロから5.25%まで上がり、ようやく利上げ停止から利下げ観測も出てきたタイミングで、長期金利が再び上がり始めている。

アメリカの長期金利は次のように推移している。

だが長期金利、つまり10年物国債の金利は上がっているものの、2年物国債の金利は今後の利下げを織り込んでピークを下回っていることを指摘しておいた。

この状況で懸念すべきことは何か、ここの読者ならば分かるだろう。長短金利差の上昇である。

長短金利差の上昇

長短金利差とは、10年物国債の金利から2年物国債の金利を引いたものである。債券は通常、期間が長いほど金利が高くなるので、長短金利差はプラスになるのが普通である。

だが急激な利上げが行われ、経済がそれに耐えられないと市場が判断するとき、政策金利に影響される短期金利の方が将来の景気に影響される長期金利より高くなる。この時に長短金利は逆転し金利差はマイナスになるのだが、アメリカの長短金利差は去年からずっと逆転している。

経験ある投資家なら知っていることだが、長短金利差の逆転は歴史上ほとんど例外なく景気後退の前触れである。

だがもう少し詳しく言えば、債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏が指摘していたように、景気後退になるのは長短金利差が一度マイナスまで下落し、そこから再び上昇に向かっていった後のことである。

だから景気後退を警戒すべきタイミングは、長短金利差の再上昇があった後だということになる。

長短金利差の再上昇と景気後退

だが何故そうなるのか。長短金利差が再上昇するシナリオには大まかに言って2パターンがある。当たり前だが、短期金利が下落する場合と、長期金利が上昇する場合である。

それぞれの場合を考えたい。まず短期金利の下落によって長短金利差が再上昇してから景気後退が起こる場合だが、短期金利は今後の政策金利の市場予想を反映して動くので、経済状況の悪化によって市場が利下げを予想しなければならない状況になっているということである。

この場合は長期金利も下がるだろうが、それよりも短期金利の下落が速い場合、それほど急激に利下げをしなければならないほど経済の状況が悪いことを示している。だからその後に景気後退が起きるのである。

次に長期金利の上昇によって長短金利差が再上昇する場合だが、長短金利差が逆転した時点で金融引き締めがやり過ぎなのだから、その状況から更に金利が上がれば勿論経済は死ぬだろう。

これがまさに今の状況であり、だから以下の記事に書いたように、期待インフレ率低下(デフレの織り込み)と長期金利上昇が組み合わさっている現状が良くないのである。

結論

ただ、長期金利が上がる後者の場合の方が実際に景気後退入りするまでの時間はかかるだろう。短期金利がそれほど下がっていない時点で、金融市場はまだ余裕をかましている。だがそこからいずれ短期金利も下落し、上記の2つのシナリオのうち前者にシフトする時が来る。だからこれから注目すべきは2年物国債の金利である。

更に実体経済側の指標で言えば、個人消費とGDPに注意すべきだろう。賃金が減速し、個人消費が減速して来るならば、個人消費に頼っているGDPがようやく減速してくる。

だがやはり金融引き締めの影響が回り回って実体経済に来るまでにはまだ時間がかかっている。2021年の恒大集団のデフォルトの問題が2023年に佳境となっているのと同じことである。

巨大なバブルは崩壊に時間がかかる。中国の2021年からから2023年を見て、アメリカの2023年から2025年を考えるべきである。