ポールソン氏、株価下落予想継続か 米国株一般は避けて金鉱株と製薬株を保有

さて、引き続き機関投資家の米国株買いポジションを公開するForm 13Fである。今回はジョン・ポールソン氏のヘッジファンド、Paulson & Coのポートフォリオを紹介する。

米国株を買っていないポールソン氏

世界有数の卓越したファンドマネージャーであるポールソン氏は、2008年のリーマンショックを予想し、サブプライムローンを空売りして儲けたことで有名である。

そのポールソン氏は2022年の株価下落以降、米国株をほとんど買っていない。株価下落前、2021年のピーク時にはForm 13Fに総額44億ドルの米国株買いポジションを報告していたポールソン氏のポートフォリオは、今回の2023年6月末の開示では10億ドルにまで減っている。

しかもその大半は製薬株と金鉱株である。製薬株はリスクオフ時に相対的にパフォーマンスが良いことで知られるディフェンシブ銘柄であり、金鉱株は株価というよりはゴールドの価格に連動するので、ほとんど米国株を買っていないも同然であり、今回の開示でもその姿勢を維持している。

高金利のアメリカ経済への影響

何故そういうポートフォリオになっているかと言えば、ポールソン氏は2023年の株価下落を予想しているからである。彼はアメリカの利上げの影響について以下のように述べていた。

高金利の影響はまだほとんど出ていない。

何故ならば、高金利が経済に影響を与えるまでにはタイムラグがあるからだ。

2023年の株価上昇はそれが原因というわけである。逆に言えば、高金利の影響がアメリカ経済に出始める頃には、株価が下がり始めるというのが彼の予想である。

しかし高金利の影響にタイムラグがあるというのは、具体的にどういうことなのだろうか。彼は次のように説明していた。

2023年には債券のデフォルト率や企業の倒産率が上がると予想している。

5%の金利でお金を借りても、返済期限にならない限り金利上昇は問題にならない。

だが返済期限になり、その時に12%や13%や15%の金利を払わないと借り換えが出来なくなっている時、あるいは借り換えがもうまったく出来なくなっている時には、債券は満期になった時点でデフォルトする。

自転車操業をしているゾンビ企業が返済期限に直面するたびに経済への悪影響が大きくなってゆくということである。

ポールソン氏の株価下落予想

事実、ポールソン氏は2023年の株高は持続不可能であり、今年の半ばから株価が下落を始めるという予想をしていた。今は8月なのでやや遅れてはいるが、株価は下がっている。そしてその後の株価の推移について彼はこう書いていた。

わたしの意見では、株価はそのまま今年中下落することになる。現在の株価上昇は持続可能ではない。

現在の株価水準が持続可能ではないということには筆者も強く同意する。10年物国債の金利がほとんど4%であり、無リスクで毎年4%の金利を得られる時に、誰が下落リスクを背負って株式を保有するだろうか。本当に株式がそれ以上のリターンを10年間出し続けられるのか。株式を買い持ちにしている人は、それを考えているだろうか。

株価と金利を比べれば、現在の株価は史上稀に見る水準で割高である。それについては何度も述べてきた。しかも金利は更に上がっている。

ポールソン氏の金価格の推移予想

さて、ではポールソン氏が買っている金鉱株についてはどうなのか。ポールソン氏は金価格の推移について次のように述べていた。

ゴールドは1年後には今より高くなっているだろうが、6ヶ月後について言えば下がっている可能性もある。

ゴールドは安全資産だと言われるが、実はリーマンショックにおいて金価格は下がった。

金融市場が景気後退とデフレを予想すると、インフレ資産であるゴールドにとっては悪影響になるからである。

だがポールソン氏は長期的にはゴールドは高騰すると見ている。何故ならば、ポールソン氏は次のように予想しているからである。

金利はほとんどの人が想定しているよりも長くそこに留まることになる。

高金利は経済に深刻なショックが訪れるまで続き、Fedは経済を再び支えるために利下げをしなければならなくなるだろう。

今の株式市場の動きはまさにそうなっていると言える。

だがやはり金相場の本番はアメリカが金融緩和に転じてからだろう。ピーク時から4分の1の規模になったポールソン氏のポートフォリオからは、株式市場にもゴールドにもそれほど積極的になれないポールソン氏の姿勢しか伝わってこない。

だが株価が上昇してから下落するというポールソン氏の予想、そしてその原因が高金利だという彼の説明は、今の株式市場の状況に一致すると思ったので彼の相場観を改めて纏めてみた。他の機関投資家の今の相場観も同様に参考にしてもらいたい。