今回は外貨建て資産に賭ける場合の為替リスクをコントロールする方法についてである。日本に居住する日本人の場合、日本株など円建て資産にのみ賭けている場合は良いのだが、様々な国の株式を保有する場合、ポートフォリオに存在する為替リスクを考慮する必要が出てくるだろう。
しかしながら、そもそも1万ドル分の米国株を持っているからと言って、1万ドル分の為替リスクを取らなければならないわけではない。この記事ではそうした為替リスクを自在にコントロールする方法について説明したいと思う。
外国株を含むポートフォリオ
例えば、米国株と英国株とドイツ株をそれぞれドルとポンドとユーロで一万通貨分だけ持っていると仮定しよう。ポートフォリオは以下のようになる。
- 米国株 10,000 USD
- 英国株 10,000 GBP
- ドイツ株 10,000 EUR
このポートフォリオの価値はそれぞれの株の株価の変動だけではなく、為替レートの変動にも左右される。株式と同時に外貨を持っていることにもなるために、株価が上がれば利益となる他、外貨が円に対して上昇した場合にも利益となる。
このような場合、株価が上がったことによる利益と、為替レートが変動したことによる利益を分けて考えることが重要となる。上記のポートフォリオでは、このポートフォリオは外国株式のポジションで構成されていると同時に、ドルとポンドとユーロのそれぞれに対して1万通貨分のポジションを持っているとも言えるのである。金融の世界ではその金額のことをその通貨に対するエクスポージャと呼ぶ。
日本円で米国株を買う
では、次により具体的に、日本円を持っている投資家が米国株に投資をする時、為替市場へのエクスポージャがどうなるのかを見てゆきたい。100万円で米国株を買うことを考えるとすると、日本円だけを持っている現状でのポートフォリオは当然次のようになる。
- JPY 1,000,000
このポートフォリオにある資金をすべて使って米国株を購入するとしよう。話を簡単にするために1ドル100円であるとすると、1万ドル分の米国株が購入できることになる。
恐らく、多くの日本の個人投資家が使う証券口座の場合、ここから円をドルに替えて米国株を買う流れになるのかと思うが、その場合為替市場へのエクスポージャがよりややこしくなってしまう。機関投資家が使うような証券口座では、実はそのようにはならない。そしてその場合、為替市場へのエクスポージャがより考えやすくなるので、先ずはそのケースから紹介したい。
100万円のポートフォリオで1万ドル分の米国株を買うわけであるが、現在のポートフォリオが何であろうと、1万ドル分の米国株を買う取引とは、ポートフォリオから1万ドルを差し引く代わりに同じ金額の米国株が追加される取引である。機関投資家が使うような口座では、その2つの条件がポートフォリオ内でそのまま執行される。つまり米国株購入後のポートフォリオは以下のようになる。
- 米国株 10,000 USD
- USD -10,000
- JPY 1,000,000
お分かりだろうか? 米国株を1万ドル分買う取引は、ポートフォリオから1万ドルを差し引いてその分の米国株を手に入れるという行為である。この取引の以前の段階ではポートフォリオには日本円の現金だけが存在し、ドルは無かったので、取引の後には米国株が追加されたと同時に、1万ドル分のマイナスが追加されたのである。そして当然ながら無関係の日本円はそのまま変わらず、100万円がポートフォリオに存在している。
この場合、為替市場へのエクスポージャはどうなっているだろうか? 先ず米国株はドル建ての資産であり、これが1万ドル分存在している。しかし同時に1万ドル分の現金のマイナスが存在しているので、このポートフォリオのドルへのエクスポージャは差し引きゼロとなる。つまりこのポートフォリオは、ドルの価格変動からの影響を受けることがない(株価が変動して保有株の評価額が変わった場合は別である)。
一方で円へのエクスポージャは100万円分そのまま存在する。だからこのポートフォリオの為替市場へのエクスポージャは100万円の円買い、つまり米国株を買う前から何も変わっていない。
このようなポートフォリオでは、投資家は外国株を買っているにもかかわらず、為替レートの変動を気にする必要がなく、ドル建てでの株価の変動のみに資金を賭けることができる。
外国株を購入したにもかかわらず、為替市場へのエクスポージャが不変であるというのは、日本の個人投資家にとっては不思議なことかもしれないが、機関投資家にとっては当然のことである。そもそも株に賭けたにもかかわらず、為替市場への賭けが同時に変わってしまうような口座は使い勝手が悪い。
個人投資家が同じことをするには?
では、日本の個人投資家が同じことをするためにはどうすれば良いだろうか? もう一度、100万円を持っているところから始めよう。
- JPY 1,000,000
日本の個人投資家向けの証券口座では、米国株を買うためには先ず円をドルに替えなければならないと理解している。そうであれば、先ずはこの100万円を1万ドルに替える必要がある。
- USD 10,000
その後この1万ドルを使って米国株を買うと次のようになる。
- 米国株 10,000 USD
しかしこのままではポートフォリオ内にはドル建ての資産しかないので、円に対するエクスポージャはゼロ、ドルへのエクスポージャが1万ドルとなり、現状では為替レートに左右されるポートフォリオとなっている。このポートフォリオを上記の例のようにしなければならないわけである。
目標となるポートフォリオ構成をもう一度思い出そう。次のようになれば良いのである。
- 米国株 10,000 USD
- USD -10,000
- JPY 1,000,000
このためには、1万ドルを売り、100万円を買わなければならない。こう言えばどうすれば良いかもう分かったことと思う。ドル円のポジションを米国株とは別に取れば良いのである。
ドルを売り、円を買うわけであるから、これはドル円の売りである。このポジションを1万ドル分作って保有しておけば、先に買った米国株と合わせて希望通りのポートフォリオが完成したわけである。
米国株以外の場合
ちなみにこれは米国株以外の場合でも同じである。例えばドル建ての金価格が上昇すると想定した場合、単に金を買うだけでは日本円に対する金価格に賭けることになってしまう。ドル建て金価格に賭けるためのポートフォリオは、ドル建ての米国株に賭けるためのポートフォリオとまったく同じである。
- 金 10,000 USD (あるいは1,000,000円分)
- USD -10,000
- JPY 1,000,000
この場合、金自体は日本のETFでもアメリカのETFでも現物でも、少なくとも現物の価値と連動しているのであれば何でも良いが、金に限らずETFのなかには2倍、3倍などのレバレッジを利かせたものもあり、その場合にはETFの額面価格で為替ヘッジの金額を考えると失敗することになるだろう。
また、ETFそのものに為替リスクをヘッジする機能が付いている場合、投資家の側でもヘッジを行うと二重でヘッジすることになってしまう。どのような場合でも、実質的にいくらの金額をヘッジしなければならないのかを考える必要があるのである。