アメリカ経済の雲行きは怪しい。筆者を含む多くの投資家が、ハードランディングに備えている。
だがジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを運用していたスタンレー・ドラッケンミラー氏などは、 AI銘柄の大本命であるNVIDIAの株価はそれでも上がると主張している。実際にはどうなるだろうか。
AI銘柄の大本命
まずはNVIDIAの説明からしよう。NVIDIAはCPUよりも処理能力が高いGPUの最大手メーカーであり、GPUは元々ゲームや3Dグラフィックなどの処理に使われていたが、同時に今では高度な処理を必要とする暗号資産やAIにとって必須の技術となっている。
だからNVIDIAはAI銘柄の大本命であると言える。ChatGPTの登場以来、NVIDIAは株式市場で注目の的となっており、2022年に株式市場全体が大きく下がった後も、いち早く反発して高値を更新している。以下はNVIDIAの株価チャートである。
チャートの形だけを見ても大した上昇だが、数字を見れば更に驚く。去年秋に100ドル強だった株価が今では400ドルを超えている。
ここで投資家は当然考えることになる。400ドルというNVIDIAの株価は割高なのか?
NVIDIAの天文学的な株価収益率
そこでNVIDIAのバリュエーションについて少し考えてみたい。まず現在の株価は418.76ドルであり、1株当たり純利益は直近1年の数字で1.92ドルである。
ここから計算すると、株式の評価の高さを示す株価収益率は218倍ということになる。
株式市場に慣れている人ならば、この数字が天文学的に高いことを理解するだろう。市場平均は20倍程度であり、一般に高く評価されるハイテク企業でも100倍を超えていればかなり高いと言われる。
ここから考えれば、株価収益率が218倍となっているNVIDIAは天文学的に割高であるように見える。
だが筆者はそうは思わないのである。
何故か? 企業のバリュエーションを考える時には、単に株価収益率の数字を見るのではなく、決算の数字をしっかり読まなければならないからである。
NVIDIAの最新の決算
NVIDIAの決算書を見ると、最新3ヶ月の売上高が前年同期の57億ドルから83億ドルに46%増加している一方で、1株当たり利益は0.77ドルから0.65ドルにむしろ下がっていることが分かる。
何故下がっているのかを見てみると、企業買収関連の一時的な経費が14億ドル計上されていることが分かる。
これは本業の売上とは関係がないので、これを除いて考えると、NVIDIAの1株当たり利益は1.19ドルとなり、前年の0.77ドルから55%増加していることが分かる。
企業の決算を見慣れている読者には分かると思うが、売上や利益が年50%増加するというのはかなりの高成長である。高成長株の場合、現在の純利益というよりは将来の純利益がどうなるかで評価されているので、今の1株当たり純利益で計算した株価収益率は割高になりがちである。
NVIDIAの将来の決算
だからNVIDIAの株価を評価するためには、将来の純利益がどうなっているのかを考える必要がある。
勿論厳密には予想できないから、ある程度の概算をやってみる。例えば1株当たり純利益が年間50%のペースで5年間増加し続けたとしたらどうなるか。5年後の1株当たり純利益は以下の式で求められる。
- 1.19ドル x 1.5の5乗 = 9.0ドル
仮に株価が現在の418.76ドルから変わらなかった場合、この1株当たり純利益を元に株価収益率を計算すると、5年後の株価収益率は47倍となる。
この数字をどう取るかである。NVIDIAほど成長していない他のハイテク企業(例えばApple)の株価収益率は30倍程度だから、それにかなり近づいている。
ちなみに6年間純利益が50%成長すると仮定すると、NVIDIAの株価収益率は6年後に約30倍になる。
50%成長が何年も続くという仮定に無理はあるだろうか? 筆者はそうは思わない。GPUには暗号資産とAIという2つの高成長産業が大きく依存している。しかも今の50%成長には、これから発展してゆくAIの需要がまだほとんど反映されていないはずだ。
恐らくは5年後にも成長率はそれほどは落ちていないだろうから、株価収益率が30という状態はむしろかなり割安に映るのではないか。そうであれば、株価収益率が合理的な水準まで上がるために、株価は上がることになる。
結論
ということで、話題になっているNVIDIAの株価水準をざっと計算してみた。
この推論には当然大きな不確定性がある。今後5年間の純利益の推移を正確に予想することは出来ないからである。
だがこうして計算してみると、現在の株価収益率で見た印象とはまったく別の姿が現れる。筆者はNVIDIAは他のハイテク企業に比べて特に割高ではないと考えている。
NVIDIAを買おうとする投資家にとっての問題は、むしろ株式市場全体が今後どうなるかである。筆者の予想は以下の2つの記事に書いておいた。
アメリカにはこれから景気後退が来るからである。
だが、NVIDIAを大量に買っているドラッケンミラー氏は次のように書いていた。
歴史を見れば、景気後退でも持続的に非常に良い決算を出せば、株価は問題ないということが分かる。
それが正しいかもしれない。筆者は今後5年間NVIDIAに買い場が来ないとは考えないから、今のタイミングで買おうとは思わない。だがNVIDIAが今の水準で特に割高だとも思わない。それが筆者の結論である。