米国6月14日、アメリカの中央銀行Fed(連邦準備制度)は金融政策決定会合であるFOMC会合の結果を発表し、事前の市場予想通り利上げを一時休止した。
利上げ停止
いつも通りだが、利上げの有無にサプライズはない。Fedは2022年から長らく急激な利上げを行なっていたが、ついに今回利上げは停止となった。アメリカの政策金利は次のようになっている。
リーマンショック前の水準近くまで上がったわけである。
ただ、問題はこの利上げ停止が一時的なもので、Fedは後で利上げを再開するのか、あるいは金利はここが天井なのかということが投資家にとって問題となる。
今後の利上げ
今後の利上げはどうなるか。会合後に発表された声明文には、今回は特に参考になるような文言はなかった。声明文は前回のものからほとんど変えられていない。
だが会合後のパウエル議長の記者会見では、色々なことが話されている。まず今後の利上げについてはパウエル氏はこう言っている。
ほとんどすべての会合参加者が、年末までに更に幾分かの利上げを行うことが適切になると考えている。
利上げ停止は一時休止でしかないということである。少なくともパウエル氏はそう考えている。
声明文と同時に発表された、会合参加者の今後の金利の推移予想を描写したドットプロットでは、中央値で見て会合参加者は今年あと2回の利上げを想定している。今年、会合はあと4回残されているので、2回に1回のペースである。
Fedの経済見通し
何故Fedはまだ利上げが必要だと考えているのか。パウエル氏はアメリカ経済について次のように語っている。
住宅や投資など、金利にもっとも敏感な部門においてはわれわれの金融引き締めの効果が表れている。
しかし引き締めの効果が経済全体、特にインフレに現れるまでにはまだ時間がかかるだろう。
パウエル氏は思ったよりもアメリカ経済をよく見ている。2021年に既に起こっていたインフレを完全無視した人間のコメントとは思えない。
特に、アメリカ経済が強い部門と弱い部門に分かれた非常にいびつな状態となっていることをパウエル氏は理解している。
弱い部分とは、言うまでもなくシリコンバレー銀行の破綻に始まる銀行危機のことである。
一方で、消費やインフレはまだまだ強く、GDPは減速してはいるものの、いまだにプラス成長を維持している。
その理由は、利上げがすぐに効く部門と効かない部門があるからである。例えば企業の設備投資はお金を借りて行われることが多いので、金利が上がると投資は影響を受けやすい。
一方で個人消費には金利はそれほど影響しない。だからパウエル氏は、投資には影響が出ていると言っているのである。消費と投資のグラフを並べると次のようになっている。
結論
今回の会合直前に発表されたCPI(消費者物価指数)統計は、インフレ率の数字自体は低かったものの、内訳を見るとインフレが根強いことを示すものだった。
筆者はパウエル氏がこの状況を楽観視することを警戒していた。だがパウエル氏は利上げはまだ途中だと言っている。必要であれば、まだ利上げをやるだろう。
専門家の多くはパウエル氏のインフレファイターとしての素質を疑っている。
だがそれは、景気後退が来て失業率が上がってもパウエル氏が厳しい利上げをやり抜けるかどうかという話である。
そして景気後退はまだ来ない。上に載せた政策金利のチャートで灰色の部分が景気後退だが、リーマンショックのあった2008年頃においては、利上げが終わってから利下げに移行した後に景気後退が来ていることに注目したい。
今はまだ利上げの終わりかけの段階である。銀行危機のような局所的な問題ではなく、経済全体が目に見えて悪くなるまでは、パウエル氏の強気の姿勢を疑う理由はない。
それまではまだ数ヶ月から半年前後はかかるだろう。そして1年後には深い景気後退になっている。詳しい予想については以下の記事を参考にしてもらいたい。
また、金利の予想については以下のゾルタン・ポジャール氏の解説が参考になるだろう。