DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、自社のポッドキャストでアメリカ経済と金利上昇について語っている。
アメリカの政府債務
アメリカでは政府債務が積み上がっている。誰でも知っていることだが、同時に誰も気にして来なかったことでもある。
ガンドラック氏は次のように述べている。
GDP比の財政赤字はこれまでどんどん悪くなってきた。そして極めつけはコロナ禍だ。
GDP比の財政赤字のチャートを見てみよう。
コロナ禍の2020年にリーマンショック時の水準を超えて爆発したアメリカの財政赤字は、莫大な現金給付がインフレを引き起こしたことによってアメリカ政府がこれ以上の刺激策をできなくなったことで元の水準に近づいてはいるが、債務上限の問題が解決されたことでアメリカ政府は再び借金を増やそうとしている。
ガンドラック氏は次のように述べている。
最近通った予算案を考えると、この財政の問題は良い方向には進まなそうだ。
しかも、問題はアメリカに景気後退がまだ来ていないということだ。Fed(連邦準備制度)がインフレ対策で金利をゼロから5%まで上げたため、筆者を含めアメリカ経済は景気後退に陥るという見方が支配的である。
しかしそれでもアメリカ経済はまだ景気後退に陥っていない。それでも財政赤字はかなり高い水準にあり、これからまた再び増加しようとしている。
問題は、景気後退が来たとき(筆者はそれを来年前半と見ているが)、財政赤字がどうなるかである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
景気後退に対する財政政策の対応は完全に制御不能になっている。
急増した国債の利払い
だがそれでも、これまで政府債務の増加にそれほど注意を払っている人は居なかった。その理由についてガンドラック氏は次のように説明している。
ゼロ金利だった間は、赤字を垂れ流しても問題は生じなかった。少なくとも自転車操業は成り立つ。金利が存在しない限り、いくらでも借金を増やせた。
借金をいくら増やしたとしても、政府が中央銀行をコントロールしている限り、金利を減らして自分の利払いを抑えることができる。
金利を払わなくて良ければ、政府はいくらでも財政支出ができ、政治家は自分の票田にいくらでもばら撒くことができるというわけである。そうして東京五輪や全国旅行支援のような政策が行われた。
だがインフレが起こった。金利を上げなければ、インフレ率は青天井に上がってゆく。
それでアメリカは金利を上げたわけである。それでシリコンバレー銀行などの地方銀行が死んでいるが、死んでいるのは地方銀行だけではない。
それはアメリカ政府も同じである。何故ならば、金利が上がれば、積み上がった大量の国債に対して、これまでほとんどゼロ金利だった国債に対して、金利を支払わなければならなくなるからである。
ガンドラック氏はGDP比の国債の利払いのチャートを上げているが、そのグラフを見ると国債の利払いは利上げで急増している。
利上げによって国債の利払いがほぼGDP1%分増えたことになる。
利払い増加の結果
上のチャートはなかなかの見ものだが、これからこの状況は酷くなるだろう。ガンドラック氏は次のように言う。
だが今や財政赤字が拡大しており、しかも誰でも知っているようにFedが金利を上げている。
筆者は金利は当分ここから上がらないと見ているが、しかしアメリカが赤字を垂れ流す限り、国債の発行額はどんどん増えてゆく。
しかも高齢化によって年金(アメリカにも似た制度がある)の支払いは増えてゆく。
利払いは増え、年金の支払いも増え、借金を増やせば増やすほど状況は悪くなる。
資金繰りに追い詰められたアメリカ政府は何をするか? 言うまでもないだろう。ガンドラック氏はこう言っている。
だからアメリカはこれから増税を行うか、年金制度を再編することになるだろう。
勿論、インフレを放置して利上げをせずに利払いを増やさないという選択肢もある。だがそうすれば、国民が後生大事に銀行口座に溜め込んでいる紙幣の価値が紙切れ同然になることになる。日本はその領域に足を踏み入れている。
実際には、どの国も増税と、インフレによる紙幣の減価と、為替市場における自国通貨の暴落の、すべてをある程度合わせたものに直面することになるだろう。愚かな政治家を支持した有権者の自業自得である。