引き続きBrexit後のイギリス法人税関連である。
国民投票でイギリスのEU離脱が決定したことを受け、イギリスのオズボーン財務相は法人税を15%未満にする方針を発表した。Financial Times(原文英語)が報じている。現在イギリスの法人税率は20%だが、この減税が実現すればアイルランドの12.5%や、同程度の税率を提供するスイス(州によって異なる)などと並ぶ低税率国となることになる。
EU離脱を決定し、EUの押し付ける緊縮財政から開放されたイギリスは、より競争力のある法人税で企業を誘致することが可能となる。これはBrexitによりEU市場へのアクセスを失うことでイギリスの法人が他のEU加盟国に移転する可能性に対する対抗策でもある。
イギリスの減税に慌てるOECDとEU
この事態に慌てたのが先ずOECDである。日本の財務省財務官である浅川雅嗣氏が租税委員会議長を務めるOECDは、低税率国を批判し、税率決定に競争原理を働かせないようにすることで先進国の高税率を維持することを目的としており、イギリスがこの談合から外れることが気に食わないのである。
続いてEUも懸念を表明した。欧州委員のモスコビシ氏によれば、イギリスの減税は「良い政策とはいえず、実現するかどうか疑わしい」(ロイター)そうである。「良いイニシアティブとは思えない。英財務省の収入が大幅に減る。英国の財政収支はすでに過剰な赤字だ」とも発言しているが、イギリスからすれば余計なお世話だろう。
イギリスが減税を行えば、競争力を維持するために他のEU諸国も減税を迫られる可能性がある。しかし低い税率で事業を誘致するのはイギリスの正当な権利であり、EUは別にイギリスの財政を心配しているのではなく、自分たちにとって不利になるからそうしてほしくないのである。消費増税を推進する日本の財務省と同じである。
ドイツやフランスの主導するEUはこうした偽善を用いながら自己の利益を保全してきた。難民受け入れの倫理的意義を説きながら混乱を招いた移民政策を推進し、労働者が不足している自国に安い労働力をもたらそうとした。ユーロ圏のその他の国はその間高い失業率に苦しんでいた。また共通通貨ユーロに関しては、実際には被害者であるギリシャやイタリアの財政を非難しながら、ドイツがもっとも利益を受けるユーロを維持し続けた。
イギリスとその他の大陸ヨーロッパ諸国との大きな違いの一つは、自分の考えを他人に押し付けないということである。国民投票前にキャメロン首相がEUに対して提出した要望のなかには、「他の加盟国がより統合されたがるのは構わないが、その場合にはイギリスに拒否権を認めてほしい」というものがある。
あくまで相手の自由を認めた上で自分の権利をお願いするというイギリス人のスタンスなのだが、ドイツを筆頭とするEUにはそのような意識は希薄であり、彼らは移民歓迎や緊縮財政など自分の考えを他人にも押し付けなければ気が済まないのである。日本人にはイギリス人の方針の方が共感できるものであると信じている。それは日本人の美徳である。
だからそのようなEUに嫌気が差したというのがイギリスのEU離脱の理由である。しかし政治的抵抗は大きく、イギリスは外交面でかなりの困難に直面するだろう。法人減税はそのための対抗策の一つなのである。