引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。今回は政府債務に関する部分を取り上げたい。
債務上限と米国債のデフォルト
アメリカでは債務上限問題が騒がれている。アメリカでは債務の上限が法律で決まっており、上限が来る度に毎回議会で上限の引き上げを決定している。
この時に野党の協力を仰がなければならない場合が多く、毎回揉めるのである。
普段ならば与党が野党にある程度の譲歩をして上限が引き上げられるのだが、今回は前大統領で野党共和党に影響力のあるドナルド・トランプ氏が、与党民主党がすべての要求を受け入れるのでなければデフォルトすべきだと主張し、本当に米国債がデフォルトになるかもしれないと大騒ぎになっている。
だが恐らく本当の問題は、債務上限が債務上限になっていないことだ。何にしても与党と野党の交渉で上限が少しだけ引き上げられ、またもう少し後に同じ交渉があるだけである。
債務上限は上限ではない。アメリカの政府債務は200兆ドルである。債務上限を多少上げるか上げないかが本当に問題なのか。恐らく日本やアメリカの政府債務は紙幣印刷で返済され、国債はデフォルトしない代わりに通貨の価値が暴落して紙幣が紙切れになる(それが今のインフレである)が、今のデフォルトは本当にそれよりも問題なのか。
この状況について、ドラッケンミラー氏は次のように皮肉っている。
債務上限についての大騒ぎは、サンタモニカの砂浜にある桟橋に座っている時に10メートルの大波が来て、桟橋が壊れてしまうと大騒ぎしているが、15キロ向こうに60メートルの津波が来ているのを誰も気にしていないような状況だ。
皆コメディーが大好きなようだ。バッタでも食べて落ち着いたらどうか。
年金問題
アメリカの巨大な政府債務を構成する大きな支出の1つが給付制度と呼ばれる年金システムである。ドラッケンミラー氏は次のように続ける。
2040年には、給付制度と国債金利の支払いだけで税収がすべて消える。
そしてほとんどの先進国の年金について言えるだろうことをドラッケンミラー氏は次のように言っている。
アメリカの給付は将来必ず減額される。減額しなくても良くなるというのは嘘であり、妄想だ。
元々年金制度とは政府によって行われたネズミ講なのだ。彼らは破綻を前提で年金というものを作ったのである。
だから人口が減少する限り、すべての人が全額受け取ることは絶対に有り得ない。岸田首相が年金の給付開始を遅らせて怒っている人が居るが、何を言っているのかと思う。元々返ってくるはずのないお金が返ってこないと言って怒っているのである。
それは制度上絶対に返ってこない。だからドラッケンミラー氏は次のように言う。
問題は今減額するのか、後で減額するのかだ。
もし今減額すれば今の高齢者にとってどれほど酷いことになるかと言う人がいるが、未来の高齢者はどうでも良いのか? 何故今の高齢者が全額受け取り、未来の高齢者が受け取れないのか?
わたしにはまったく理屈が通っていないことのように聞こえる。
まったくの正論ではないのか。これに対するまともな反論など聞いたことがない。だが政府がまともな理屈を政策に通したことがあっただろうか。
より詳しいドラッケンミラー氏の議論は以下の記事に載っている。そちらも参考にしてもらいたい。