引き続き、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの解説である。今回はジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック氏が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオを紹介したい。今回開示されたのは3月末のポジションである。
フィッツパトリック氏の率いるソロスファンド
数日前にはかつてソロスファンドを率いていたスタンレー・ドラッケンミラー氏のポートフォリオを紹介した。
ドラッケンミラー氏はアメリカ経済が金融引き締めでハードランディングすることを予想した上で、それでも成長しそうなグロース株を選んで買っていた。
彼がかつて率いていたソロスファンドを今率いているのはフィッツパトリック氏である。銀行危機が騒がれる中、彼女はどういう銘柄を選択しているだろうか。
製薬株
今回の最大ポジションは、長らく大きなポジションとなっている製薬会社のHorizon Therapeuticsである。今回は株数を15%増やし、3.6億ドルのポジションとなっている。株価は以下のように推移している。
一気に上がってから数日前に下がっているが、このチャートを見て何が起こったのか大体分かる人は株式市場で経験のある人かもしれない。
実際に何が起こったのかと言えば、買収が発表されてから、当局によってストップがかかったのである。買収はやや暗礁に乗り上げている。
フィッツパトリック氏が買収が発表された後に高値で売らずむしろ買い増しているのは、買収された後も価値が上がると踏んでいるからだろうか。フィッツパトリック氏は非公開株も手がけるファンドマネージャーなので、公開株かどうかはあまり気にしないのだろう。
だがいずれにせよこの銘柄については個別株要因に基づく投資で、フィッツパトリック氏のマクロ的な判断はあまり反映されていなそうだ。
債券の買い、ジャンク債の空売り
さて、しかし次は非常にマクロ的なポジションである。フィッツパトリック氏は比較的信頼度の高い投資適格債のETFを買った上で、ジャンク債ETFのプットオプションを買っている。
プットオプションは株式が下落すれば利益の出る金融商品なので、投資適格債を買った上でジャンク債の下落を見込んでいることになる。
ポジションは次のようになっている。
- 投資適格債ETF: 2.7億ドル
- ジャンク債ETFのプット: 1.9億ドル分
また、この他にCloudflareなど個別企業の転換社債(株式に転換される可能性のある債券)などが複数追加され、結構な規模のポジションとなっている。
これがどういうことか解説すると、恐らくフィッツパトリック氏はアメリカの景気後退で金利が下がるものの、倒産が増えるのでジャンク債は下落すると踏んでいるのだろう。
アメリカの長期金利は以下のように推移している。
去年の秋にアメリカのインフレ率が頭打ちしたことで、金利も頭打ちした形になっている。最新のインフレ率の動向については以下の記事を参考にしてもらいたい。
このようにインフレの最中でも景気後退が来ると予想されれば金利は下がる。金利低下は債券価格上昇を意味するが、景気後退で倒産しかねない企業の債券については価値が下がるので、質の高い債券を保有し、質の低い債券を空売りするという選択肢になるのである。
非常にマクロ的に良く組まれたポジションだと思う。そしてやはり、フィッツパトリック氏(そしてソロス氏)もアメリカ経済の景気後退を見込んでいる。ドラッケンミラー氏と同じである。
Alphabetの買い
他に規模の比較的大きいポジションは、Googleの親会社であるAlphabetの買いだろうか。こちらは1.5億ドルのポジションとなっているが、前回12月末から株数が19%減らされている。
株価はこのようになっているが、ポジションの減額は3月末までに行われているので、判断が少し早かっただろうか。だがそれでもまだ比較的大きいポジションである。
結論
ということで、最近あまり表に出て来ないソロス氏とフィッツパトリック氏だが、やはりアメリカ経済の景気後退を予想しているらしい。
これで恐らく筆者のフォローしている著名投資家のうち、景気後退を予想していない人はいないということになるのではないか。他の専門家の意見も参考にしてもらいたい。