ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏が、Sohn Conferenceにおけるインタビューで、ハードランディング後の金融市場について語っている。
ハードランディング時の投資戦略
ドラッケンミラー氏のこのインタビューについては何度かに分けて紹介しているが、ドラッケンミラー氏はアメリカ経済がFed(連邦準備制度)の金融引き締めでハードランディングに陥ること、そしてそのときにFedが緩和を再開してインフレ第2波が来ることを予想している。
ドラッケンミラー氏は今の状況をアメリカで過去に物価高騰があった1970年代半ばと同一視しているようである。彼は次のように述べている。
1973年にOPECが原油の価格を上げ、原油価格は確か400%上がったと思う。
1970年代のアメリカのインフレ率と政策金利は次のように推移している。
1974年にピークを迎えたインフレ第2波は、一度収まったものの当時のFedの議長であるアーサー・バーンズ氏が金利を早く下げすぎたため、その後インフレ第3波に繋がっている。
ドラッケンミラー氏は次のように続ける。
バーンズ氏はブレーキから足を離すのが早すぎた。そして原油や化学などの銘柄にとって素晴らしい時期となった。
電気自動車移行で銅の買い
中央銀行の緩和でインフレが再発するならば、買うべきはまず金属や農作物などのコモディティ銘柄だろう。ドラッケンミラー氏は次のように続けている。
今の状況も当時とそれほど違うとは思わない。ハードランディングになれば政府の対応に状況は大きく左右されるが、ハードランディングを抜けるにつれて買うべきコモディティ銘柄があると考えることができる。
ハードランディングになれば、コモディティはほぼすべてネガティブな影響を受けるだろう。それは安全資産と呼ばれるゴールドも例外ではない。
だがその後にインフレが戻ってくるのならば、コモディティはそこから高騰する。ハードランディングはその前の絶好の買い場となるだろう。筆者が年始に想定したシナリオをドラッケンミラー氏も見ているようである。
だがコモディティといっても色々あるが、どの銘柄が良いか。ドラッケンミラー氏は次のように銅を進めている。
一番需給が引き締まっているのは銅だ。ハードランディングを控えている今は、規模の大きいポジションを持とうとは思わない。ハードランディングが始まれば景気に敏感な銘柄がどうなるか知っているし、わたしは馬鹿ではないからだ。
だがハードランディングから抜ける時、電気自動車への移行に銅が有用であること、政府がたくさんの政策でそれを支援するだろうことを考えると、銅が大きな恩恵を受けないと考えることは難しい。
問題はいつ、どれだけ買うべきかということだ。
銅は電線に使われるように、電気の伝達には不可欠である。だから電気自動車銘柄として既にかなり買われている。
ちなみに筆者のお薦めはシルバーである。理由は長期的水準から見てかなり割安であること、そして1970年代にコモディティの中で一番上がったのが貴金属であることである。詳しくは以下の記事を参考にしてほしい。
アメリカの住宅
さて、次にドラッケンミラー氏が挙げるのは住宅である。彼は次のように述べている。
もう1つの興味深い投資対象はアメリカの住宅業界だ。
住宅価格は金利が5%上がったお陰で大きく下がったが、2007年や2008年とは違い、核家族向けの住宅は構造的な不足状態にある。だから経済が悪化すれば、直感的には買うべきではない筆頭銘柄となりそうな住宅関連銘柄が、ハードランディングを抜け出るにつれて大きな恩恵を受ける銘柄になりそうだ。
投資方法としては住宅を保有するREITを買うか、あるいは建設株だろうか。
グロース株
ドラッケンミラー氏は更に推奨銘柄を挙げる。彼はこう続ける。
そしてグロース株はいつも選択肢だ。具体的な名前を言うのは難しいが、バイオテック銘柄はここ3年から5年で低迷しているものの、癌治療などの分野で革新的なことが起こっている。
先週のエコノミストの記事だったと思うが、ウィルスを使って細菌を殺すウィルス薬が開発されている。バイオテックは有望な分野だ。
ドラッケンミラー氏はグロース株が好きなようだ。コロナ後も一貫してAmazon.comやMicrosoftなどのハイテク株がポートフォリオ内の筆頭銘柄として挙がっている。成長する銘柄に賭けるのは投資の基本である。
ではハイテク株はどうだろうか? 彼はこう続けている。
そしてもちろんAIだ。
一時的な流行に突っ込んでいるのではないことを願いたい。
わたしは2000年のドットコムバブルの天井を掴んだこともある。
ドラッケンミラー氏は笑いながら言う。クォンタムファンドを辞める羽目になった時の話である。以下の記事に詳しいが、面白いので読んでみてもらいたい。
しかし彼は次のように続ける。
だがAIは本当に本物だと考えている。インターネットと同じくらいの発明かもしれない。ハードランディングが来ればドットコムバブルが弾けた後の2001年や2002年のように素晴らしい買い場になり得る。
ちなみにドラッケンミラー氏はハードランディングが来る前の今、既にAI銘柄であるMicrosoftとNVIDIAを保有している。筆者は下がれば買いたいと思っている。さてどうなるだろうか。