DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューで、5月のFOMC会合におけるFed(連邦準備制度)の利上げとアメリカで続いている銀行破綻について語っている。
5月のアメリカ利上げ
5月のFOMC会合ではFedは市場の予想通り0.25%の利上げを行なった。アメリカの政策金利はついに5%となった。
だがパウエル議長は次回6月の会合で利上げを継続するのかについてはデータ次第だとした。
ガンドラック氏はこの会合について次のように語っている。
態度をはっきりさせない会合だった。市場もそれを想定していた。次の会合でやることについて決定も予想も何もしないという態度は、国債市場のこれまでの入り込みと一致している。
2021年に既に上がっていたインフレ率をパウエル議長が何の根拠もなく無視したように、中央銀行の経済予想はどうせ当たらないのだから、予想しないのが正しいというわけだ。
会合後のパウエル議長の記者会見については次のようにコメントしている。
多少タカ派であったか、それを匂わせる態度であったとも思う。パウエル議長はインフレ退治を固く決心しているように聞こえたし、2%のインフレ目標を堅持しているようだった。
インフレ率はこれまでに大きく下落した一方で、これからは同じ速度では下がらないと彼が言ったのも正しい。
アメリカのインフレ率は去年の秋以降大きく下がっている。それを一番正しく予想したのもガンドラック氏である。
アメリカのインフレ率は次のようになっている。
インフレ率の見通し
だがここ半年のインフレ率の下落は大きく原油価格の下落に依存している。以下は原油価格のチャートである。
だが原油価格の下落も徐々に緩やかになってきているので、CPI(消費者物価指数)への影響も緩やかになってくる。
去年にはインフレ率の急落を予想したガンドラック氏は、今後のインフレ率について次のように予想している。
われわれの予想ではCPI(消費者物価指数)のインフレ率は今年、前年同月比で4%までしか落ちないだろう。それはFedが経済に何かが生じない限り金利を今の水準に保つことを意味する。
だが銀行破綻が続く中、経済に何かが生じる可能性が低くないことは間違いない。
「何かが生じなければ」インフレ率はそれほど下がらない。だが「何か」は起きないのだろうか。
銀行危機の今後
何故そう言うのかといえば、アメリカではそこそこの規模の銀行が立て続けに破綻しているからである。最初はシリコンバレー銀行だった。最近ではファーストリパブリック銀行である。
そして今ではパックウェスト・バンコープが危うくなっている。株価は次のようになっている。
絶体絶命ではないか。
これらの銀行は顧客が預金を引き出していることで破綻している。ガンドラック氏は次のように解説している。
人々は預金を引き出している。何故ならば、銀行にお金を預けておく理由がまったく存在しないからだ。
アメリカでは政策金利が5%まで払っているにもかかわらず、当座預金(日本の普通預金に相当)に対して十分な金利を払っていない銀行がある。
そういう銀行の預金者は、本来ならば5%近い金利が得られるにもかかわらず、預金に対して十分な金利を得ていない。銀行が中抜きしているのである。以下の記事で解説している。
ガンドラック氏は次のように続ける。
Fedが5%利上げしたお陰で、預金者はもっと大きな金利がいくらでも手に入る。数ヶ月物の国債の金利は5.2%だ。
2年物国債の金利は銀行危機を経て1%以上下がったが、それでも預金は流出を続けているようだ。今が銀行危機の最終章ということにはならないだろう。
以下の記事でシリコンバレー銀行の決算書を見ながら説明したように、これらの銀行が破綻しているのはFedの利上げが原因に他ならない。
利上げをしなければならなくなったのはインフレのせいだから、すべてはインフレのせいなのだが、いずれにしても原因である高金利がなくならない限り、銀行破綻はなくならないだろう。
銀行危機の結末
ちなみに銀行破綻の何が悪いかと言えば、銀行が破綻することの他に、破綻していない他の銀行も破綻しないように手元に現金を置いておこうとすることである。
つまりは銀行が中小企業への融資を渋るようになる。実際そうなっているというデータをガンドラック氏が以下の記事で指摘している。
だが中小企業が融資を受けられないと資金繰りが厳しくなって預金を引き出すことになるので、結局は銀行が苦しむことになるという悪循環である。
ガンドラック氏は今回の会合で利上げはしない方が良かったとした上で、次のように述べる。
Fedが利下げをするのでなければ、この危機を止められるものが一体何かあるだろうか。だが次の会合で利下げはないとFedは言っている。
インフレが起こった時点で筆者は既に言っていたことだが、アメリカ経済は既に完全に詰んでいる。インフレとはそういうものなのである。
ちなみに日本政府はいまだにインフレを目指して紙幣印刷や全国旅行支援などのインフレ政策を行なっている。それが既に利上げを終えようとしているアメリカ人にとってどう見えるかは、経済学者ラリー・サマーズ氏が以下の記事で語っている。
誰もが脱出を試みている泥舟に乗り続けることにかけて日本人より優れた国民はない。世界大戦時、植民地政策に遅れてやってきてすべての罪を被せられた日本人の優れた先見性は今も健在らしい。彼らは天才だと思う。
ちなみに3月の会合でFedは次のように言っていた。
アメリカの銀行システムは健全で強靭だ。
政府の金融関係者は基本的に何も分かっていないので全員解雇すべきだろう。何故彼らが必要なのか。一体何の役に立つのか。犬の餌にでもなるのか。誰かに教えてもらいたいものである。