アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は5月3日に金融政策決定会合であるFOMC会合の結果を発表し、市場の予想通り0.25%の利上げを行なった。問題はこの利上げが最後になるかどうかである。
最後の利上げとなるか
まず、0.25%の利上げが発表されたがこれは事前の市場予想通りである。これでアメリカの政策金利は5%となった。3月の会合で発表された資料によると、会合参加者の多くはこの水準を今年の政策金利の適正値とみなしているので、それに変更がなければ利上げはここで終了となる。
アメリカのインフレと利上げについては2021年から筆者を含む多くの専門家が予想していたが、5%という数字を去年8月の段階で持ち出したクレディスイスの天才ゾルタン・ポジャール氏が一番正確だったということになるのだろう。
問題は彼の言う通りこれからの不況が1年で終わるものではなく、何年も続くものになるかどうかである。
いつものように会合後の声明をまず見てみよう。細かい言葉の修正はあるものの、今回声明文の変更の中で意味のあるものは、「追加の引き締めが適切かもしれないと予想している」という部分が「長期的にインフレを2%に戻すためにどれだけの追加の引き締めが必要となる可能性があるかを決めるために」経済状況を注視するという表現に変わっているところである。
声明文を読めば追加の利上げがあるかないかを解釈させない表現となっていることが分かる。
会合後の記者会見でもパウエル議長は次の利上げがあるかどうかは「データ次第」だと言った。今後のインフレ率などのデータ次第でどちらにでも動けるような状況にしておきたいのだろう。個人的には住宅価格が再上昇していることが気になっている。更なる利上げが必要になる可能性はある。
市場は利上げがこれで打ち止めになることを期待していただろうから、追加利上げの可能性を強調するためにパウエル議長は次のように言っている。
より大きな金融政策の引き締めが正当化される状況になれば更なる行動をする準備がある。
利上げ停止の結論はこの会合では決まらなかった。
これは追加利上げがあると言っているわけではない。あっても驚くなと市場に釘を差しているのである。
FOMC会合後の市場の反応
この会合を受けて米国株は下落した。
市場は追加利上げの可能性を恐れているのだろうか。ロイターの記事は米国株の下落はパウエル氏が利上げ停止を確約しなかったことが原因だと言っている。
だがそうではない。金融市場はむしろ利下げを織り込んでいる。金利先物市場の織り込みでは次回6月の会合では91.5%の確率で金利維持、7月は52.8%の確率で利下げ、9月までには2回の利下げが行われる可能性が40.2%となっている。
つまり、金融市場は利下げを織り込んだ上で株価を下落させているのである。ドル円も勿論ドル安円高で反応した。
金利低下でも株価下落の理由
何故か? それは株式市場がもともと有り得ない夢を見ていたからである。
未曾有のインフレに対応するためにFedは金利をゼロから5%まで上げた。その影響は着実に出ている。シリコンバレー銀行がまず破綻し、最近破綻したファーストリパブリック銀行で4行目である。
債券市場は最初からアメリカ経済の景気後退を織り込んでいる。短期金利より長期金利が低くなっているのがその証拠である。短期的な利上げで長期的には景気が沈んでゆくことを織り込んでいるのである。
だがその織り込みは株式市場の楽観とは合っていなかった。経済学者のラリー・サマーズ氏が以下の記事で指摘している。
本当に債券市場の予想する景気後退が起きるのであれば、株式市場はより大きく下落しなければならない。だがそうなっていなかった。それについて筆者は以下の記事でこう書いていた。
経験のある投資家であれば筆者の言いたいことがあるだろう。見飽きた映画ではないか。中央銀行がアグレッシブな利上げを行ない、何処かで何かが破綻して、明らかに経済は景気後退に向かっているが、株式市場はそれを無視している。
あまりにも見飽きた映画ではないか。直近では2018年がそうだった。だがそんなことは歴史上何度でも起きている。
2018年当時の記事が残っているので、株式市場がダンスを楽しんでいる間に当時の利上げによる世界同時株安のことを思い出しておくのも良いだろう。
株式投資家は短期的にはダンスを踊っていられるが、時間の経過と共にその馬鹿げた踊りも段々キレが悪くなってくる。FOMC会合のようなイベントを経るごとに株式市場の楽観が債券市場の悲観に寄ってくる。それが下落相場におけるいつものストーリーである。
9%ものインフレを退治するための5%の利上げを経てアメリカ経済が平気でいられるということは有り得ないからである。1970年代の物価高騰時代の教訓を知っている人間であれば誰もが知っている。
だがパウエル議長は記者会見で次のように言った。
失業率の大きな上昇なしに労働市場がこのまま沈静化するということがわたしには有り得ることのように見える。
それは眼が悪いからである。ノーパンしゃぶしゃぶ省出身の黒田なにがしと同様、企業買収を扱うプライベート・エクイティ・ファンド出身のパウエル氏はマクロ経済学を一切理解していない。以下のハイエク氏の論理を読めば、インフレ後の失業増加が単なる算数の問題であることが分かる。
中央銀行家を少なくとも自称するならば経済学の古典であるハイエク氏の著書くらいは読んでもらいたい。
経済について何も知らない彼の泥舟に乗りたければ株式を買うのも良いだろう。筆者は遠慮しておこう。株価は大きく下がるだろう。
貨幣論集