ここ数日、ソロス氏がBrexitを予想して利益を得たなどと根も葉もないことがニュースを賑わせていたが、ソロス氏の真意についてはわたしが記事で書いた通りであったということである。
テレグラフ紙(原文英語)などが伝えるところによると、ソロス氏のスポークスマンがメディアに対し、イギリス国民投票前後におけるソロス氏のポジションについて説明を行ったという。スポークスマンは以下のように述べている。
ジョージ・ソロスはイギリスにEU残留するように訴えていた最中、ポンドの下落に賭ける取引などしてはいなかった。彼はむしろポンドを買っていた。
以前も報じたように、ソロス氏はイギリスのEU残留を訴えていた。ロシアを脅威とみなし、ウクライナ情勢を大いに案じているソロス氏は、その政治的立場からヨーロッパが団結してロシアと戦える状態を望んでいた。しかし結果的にイギリス国民はEU離脱を選んだ。
国民投票の結果を受けポンドは急落した。以下はポンドドルのチャートである。
一方で、ソロス氏のポートフォリオがEU離脱の結果利益を上げたというのも事実である。その点についてもスポークスマンは以下のように述べている。
しかしながら、金融市場に対して全般的に悲観的な見方をしていたため、他の投資からは利益を得た。
つまり、ソロス氏は確かにEU離脱から利益を受けたが、別にそれを予想していたわけではなかったということである。これは両方ともわたしが記事で書いた通りである。
確かにわたしやソロス氏のような投資家は、イギリス国民投票後の市場の変動から利益を受けた。しかし、わたしは別にEU離脱を予想していたわけではないし、ソロス氏はむしろEU残留を予想していた。(中略)だからソロス氏がEU離脱を予想して利益を挙げたというのは、恐らく誤りである。彼はEU離脱を予想していなかったし、個人的にはEU残留を切望していたはずだ。
しかしそれでもメディアというのは「ヘッジファンドマネージャーが大きな政治的イベントを事前に予知していた」かのような陰謀論めいた話を好む。ソロス氏もEU残留を奨めながら裏では逆の取引をしていたかのような悪評(そもそも推奨と予想が一致しないことは欺瞞ではない)が流れるのを嫌い、わざわざポンドの空売りはしていないと公表したのだろう。
ヘッジファンドの動きについて外野が妙な脚色をするのは今日始まった話ではない。ソロス氏は中国バブルについて言及した時も中国政府から過剰な反応を受けていたし、投資銀行が引き起こしたリーマンショック時においても、無関係なヘッジファンドがしばしば矢面に立たされた。
われわれバイサイドから見れば、金融における大抵の悪はセルサイドである投資銀行の仕業であり、より皮肉的に言えば、市場で真っ向勝負して正当に利益を得られるヘッジファンドマネージャーはそもそもあくどい方法を用いる必要がなく、一方で能力の劣る投資銀行家たちは、顧客を欺いたりインサイダー情報を用いたりしながらでなければ生業が成り立たないのである。
ヘッジファンドに関するこうした偏向報道には慣れているのだが、しかし言うべきことは言っておこう。そして何より重要なのは、ソロス氏が利益を挙げた金などの世界経済に悲観的ポジションは、EU離脱など関係なしに成り立つものであるということである。
投資家はソロス氏のポジションが個別のイベントに賭けただけものであるという、ニュースを賑わせたまやかしに惑わされず、彼が想定している超巨大バブルの崩壊に備えるべきだろう。多数の言うことを真に受けても碌なことはないのである。