世界最大のヘッジファンド: 台湾をめぐる戦争を始めるのは中国かアメリカか?

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、Impact Theoryのインタビューで台湾をめぐる戦争の可能性と、それを始めるとすればどの国かについて語っている。

答えにくそうにするダリオ氏

ダリオ氏は司会者に「中国は今の混乱に乗じて台湾を攻めるのではないか」「それについてどう思うか」と聞かれて、非常に答えにくそうな顔をした。

しかもそのまま「アメリカと中国の両方の側の人々をよく知っているが」と言いながら言葉を詰まらせている。

何故ダリオ氏は言葉を詰まらせているのか。彼が率直な意見を言えば、西側の人々を感情的にさせると分かっているからだ。

何故ダリオ氏の率直な意見は西側の人々を感情的にさせるのか。彼は話しにくそうなしかめ面をそのままにしながら次のように話し始めている。

これは実際にはアメリカが台湾の問題に関してどれだけ圧力をかけるかという問題だ。そしてアメリカがそうすれば、情勢は危うくなる。

司会者が聞いていたのは「中国がしかけるか」だったのに、ダリオ氏の答えでは主語がアメリカになっている。

西側諸国と中国・台湾

何故中国と台湾の問題でアメリカが出てくるのか? ダリオ氏は引き続き言いにくそうにし、「タカ派の動きが…」「台湾を防衛…」などともごもご言っていたが、「少し歴史について話そう」と言い直して次のように続けている。

台湾はかつて中国の一部だった。1840年頃に外国勢力が中国に来て中国と交易したがったが、中国はそれをしたくなかった。だから当時アヘン戦争が起こった。

中国人は外国人に対し、彼らは中国の欲しいものを持っていないから貿易はしないと言ったので、外国人はアヘンを持ち込み、中国人はそれを欲しがった。

ちなみに「外国勢力」とはアヘン戦争においてはイギリスのことである。

アヘン戦争は中国の欲しがるまともな輸出品を何も持っていなかったので代わりに麻薬を密輸していたイギリスを追い払おうとした中国にイギリスが逆ギレした歴史上有数の酷い戦争なのだが、中国はアヘン戦争に負け、中国は弱いと見た諸外国は中国にたかり始めた。

中国はその後もアメリカやフランスやドイツやロシアや日本に不平等条約を結ばれ、終戦まで無残な扱いを受けることになる。

当たり前だが中国人は当時のことを根に持っている。それでも中国人が日本人と会うと友好的に接してくれるが、日本人が「中国が攻めてくるかもしれないからアメリカと仲良くしなければならない」と言うのを中国人が聞くと、当たり前だが中国人は「こいつは馬鹿ではないのか」と思うだろう。

イギリスやアメリカが中国に対して倫理的な説教をしているのを中国人は苦笑しながら聞くしかないはずだ。こいつらは何を言っているのだろう。

日本人でも少しでも客観的な視点を持てる人は、この件に関して中国人に理があることが分かるはずである。攻めてきた加害者であるはずの日本人が「中国が攻めてくるかもしれない」と真顔で言っている。馬鹿ではないのか? 理性がかけらでも脳に残っている人間ならば、加害者が何を言っているのかと思うだろう。だが残念ながら理性のかけらが脳に残っている人間は少ない。

戦後の台湾

いずれにせよ中国は外国勢力に征服された。ダリオ氏は話を進める。

そして外国勢力は戦争に勝ち、中国の大きな部分を占領した。1895年には日本が台湾を取った。その後第2次世界大戦まで話を進めると、第2次世界大戦後に戦勝国が誰が何を取るかを決定した。そして台湾は中国に返還された。これが1945年だ。

その後中国には内戦が起こった。いつものように右派と左派が戦い、資本主義者は共産主義者に蹴り出されたので台湾に行った。そして彼らが台湾を支配している。

それが台湾の歴史である。だが重要なのは次の部分だ。

台湾が中国の一部であることは誰もが同意している。議論の的は誰が中国を支配するかだ。

台湾の人々は「自分たちが中国を支配する」と言う。北京の人々は「自分たちが中国を支配する」と言う。だが台湾が中国の一部であることに異を唱えている人は居ない。

だが異を唱えようとしている人々がいる。それが問題なのである。

ダリオ氏はこう続ける。

もしアメリカか台湾が「台湾は独立した国だ」と言えば、それは中国にとってのレッドラインだ。戦争になる。

それは誰もが知っている。政府にいる誰もが、そこを越えると戦争が起きると知っている。

そしてそれを知りながら、台湾にわざと線を越えさせようとしている連中が居る。彼らは戦争を引き起こしたいのである。それが誰かと言えば、例えば「断交後初めて台湾を訪問した下院議長」となるために、下院議長を辞める前の記念として台湾を訪問したナンシー・ペロシ氏である。

重要な論点は、下院議長の台湾訪問はアメリカが台湾を国として認めるというサインになりかねないということである。ペロシ氏は政治家なのでそれを理解していたはずであり、理解していたにもかかわらず(あるいはだからこそ)下院議長である間に台湾を訪問した。

そのペロシ氏の記念旅行のおかげで台湾がどうなったかと言えば、一線を越えようとしたアメリカの政治家(とそれを受け入れた台湾政府)に怒り狂った中国の海軍によって何日も囲まれることとなった。

ちなみにペロシ氏は台湾が中国軍に囲まれる中、颯爽とアメリカに帰っていった。ペロシ氏が本気で台湾を心配して台湾を訪問したと考えている人はアヘンでもやっているのだろう。

台湾とウクライナ

ちなみにこの構図はウクライナ情勢と同じである。2014年、アメリカとEUによって支援されたウクライナの暴力デモが、当時選挙で選ばれていた親ロシア政権を追放し、その後ウクライナにはアメリカの外交官ビクトリア・ヌーランド氏が選んだ親アメリカの政権が立った。ヌーランド氏がウクライナへの介入に及び腰のEUを「Fuck the EU」と罵っている音声がYoutubeに暴露されている。

そしてその後もアメリカ政府、特にオバマ政権で副大統領をやっていたバイデン氏はウクライナ政府を私物化し続けていた。以下の記事で説明している。

その後もアメリカの補助金漬けになってアメリカ政府の意を汲み続けたウクライナ政府は、ウクライナ国民をロシアに対する使い捨ての武器として使おうというアメリカの意向に従い続け、ゼレンスキー大統領が対ロシア用の核兵器の保有をほのめかしたところでプーチン大統領のレッドラインを踏んで戦争になったのである。アメリカの望み通りだ。

ウクライナや中国に関して西側を支持している人間は全員頭がおかしいのだろうと心の底から思う。

結論

ということで、ダリオ氏がしかめ面でひどく話しにくそうにしていた理由が分かっただろう。筆者やダリオ氏のように、西側に生まれながら西側の馬鹿げたバイアスをゴミ箱に捨てた人間が自由に語ると西側の人間が癇癪を起こし始める。

だが優れた投資家は全員が弱気のバイアスにかかっている時に株を買い、全員が強気のバイアスにかかっている時に株を空売りする人間である。バイアスから逃れることに関してこれ以上の人種はいない。だからダリオ氏を含む著名投資家の政治観はほぼ一致している。

筆者の金融の話に耳を傾けながらも政治の話は理解できない人々に言っておくが、あなたがたは筆者の金融の話も何も理解していないのである。この本質が分かるだろうか。