アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がGZERO Mediaのインタビューでアメリカの商用不動産についてコメントしている。
銀行危機と商用不動産
シリコンバレー銀行の破綻に始まる銀行危機の後、アメリカの商用不動産の先行きを警告する声が高まっている。
何故ならば、シリコンバレー銀行の破綻後、地方銀行は同じ轍を踏まないように現金を温存すべくローンの組成を躊躇すると言われており、商用不動産への融資が先細るのではないかと懸念されているからである。
例えばBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏は次のように述べていた。
債券価格の下落でダメージを受けている銀行は、更なるローンの組成を避けるだろう。だがこういうローンは例えば不動産、特に商用不動産向けのものだ。
コロナ後に商用不動産が使われなくなったことなど様々な要因もあり、商用不動産には問題が生じるだろう。
また、そもそもコロナ後にリモートワークが一般的になったことで、オフィスの価値が下がっているのではないかという議論もある。
だがサマーズ氏はダリオ氏らの議論には賛同しないようだ。彼は次のように述べている。
オフィスビルは商用不動産のたった20%しかない。
商用不動産と言っても様々であり、オフィスビルの他にはショッピングモールやデータセンター、倉庫など多岐に及んでいる。
また、出社日が減ったことがそのまま会社のスペース縮小に繋がるわけでもないとサマーズ氏は次のように指摘している。
更に、人々が週3日しか仕事に来ないからといって、週5日仕事に来ていた時と比べて60%のスペースしか必要にならないというわけではない。結局全員が出社する日には全員を収容するスペースが必要になるからだ。
下落している商用不動産は買いか
市場ではどうなっているだろうか。例えばポートフォリオの37%をオフィス向けのローンが占めるAres Commercial Real Estateの株価は次のようになっている。
金融引き締めが進んだ2022年から下落トレンドだが、シリコンバレー銀行の破綻があった2023年3月に下落が加速している。
こうした商用不動産は割安で買いだという意見もある。コロナの影響は軽微と見るサマーズ氏の意見の他に、債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は1月にこう言っていた。
商用不動産ローン、消費者ローンなどを買っている。
これらの債券は金利上昇のために価格が大きく下がっている。
一方で上で述べたようにダリオ氏は銀行危機後の信用収縮は続き、商用不動産にダメージを与え続けると見ている。
結論
コロナの影響に関してはサマーズ氏の議論ももっともなのだが、銀行危機はインフレ退治の金融引き締めが原因となっている大きな波の一部であり、この波が続く(インフレ退治のための高金利が続く)のであれば、個人的にはその波の影響を受ける資産は波が終わるまで避けたいと思う。
商用不動産ローンを買っているガンドラック氏も、長期の米国債を買ってリスクオフに備えるトレードをしているので、商用不動産ローン一本に賭けているわけではない。シリコンバレー銀行の破綻以来リスクオフが進んでいるので、むしろ彼は今米国債で儲けているはずだ。
筆者は当分そのリスクオフトレンドが長期的には続くと踏んでいる。株式市場についても同じである。米国株は結局長期ダウントレンドの域を出ていないし、今後半年はそうなり続けるだろう。