引き続き、Impact Theoryによる世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏のインタビューである。
銀行危機と米国債の下落
前回の記事では、ダリオ氏はシリコンバレー銀行の破綻から始まる銀行危機が単に銀行だけの問題ではないということを説明していた。彼は次のように述べていた。
シリコンバレー銀行に起こったことは銀行に限らず世界中のあらゆる組織や人に起こったことだ。
問題の根源はFed(連邦準備制度)がインフレ対策で金融引き締めを行なっていることであり、その結果の1つとして、債券価格が世界的に下落している。
シリコンバレー銀行の破綻の一因は、シリコンバレー銀行が保有していた米国債の価格が下落したことだった。
だが米国債を保有しているのは銀行だけではない。世界中の人々が下落した米国債を持っている。だから世界中で同じ問題が生じているはずである。ダリオ氏はこのことについて以下のように述べている。
彼らが保有している債券は大きく下落している。しかもそれらの資産は借金をして買われており、その資産に酷い損失が生じている。
その損失はどうなるか? ほとんどの場合、それらの資産価値は時価で計算されていない。損失は会計上考慮されず、認識されない。いわば損失は隠されている。
そして彼らは損失はいつか元に戻るだろうという希望的観測を持っているわけだが、それは結局問題を生む。
そして破綻のニュースがまた世界の何処かから聞こえてくるわけである。
銀行危機は何処に波及するか
では具体的にどのような場所に影響が出るのか? ダリオ氏は次の破綻の舞台となる業界についていくつかあたりをつけている。
例えば商用不動産である。彼は次のように述べている。
債券価格の下落でダメージを受けている銀行は、更なるローンの組成を避けるだろう。だがこういうローンは例えば不動産、特に商用不動産向けのものだ。
コロナ後に商用不動産が使われなくなったことなど様々な要因もあり、商用不動産には問題が生じるだろう。
2008年のリーマンショックは住宅不動産の問題だったが、ダリオ氏によれば今回はオフィスや商業施設などの商用不動産に問題が生じるそうだ。
更に、ダリオ氏はスタートアップや非上場企業に投資するファンドにも次のように言及している。
更にこうした融資はベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(訳注:非上場企業に投資するファンド)などにも行っていたが、彼らもキャッシュフローの問題に直面するだろう。
こうした資金の流れはもはや以前と同じようには行かない。
資金の枯渇は労働市場に影響する
このように、銀行危機が様々な方面に波及すれば、それでダメージを受けた企業と関係している人々が更にダメージを受けることになる。まさにドミノ倒しである。
ダリオ氏は次のように続けている。
そうなれば彼らは様々な方法でコストカットを行うことになる。
だから労働市場には変化が起きている。ハイテク企業など資金の流れが細っている業界では雇用削減が行われている。そしておおよそ同じことが世界中で起こっている。
企業にお金がなくなれば、起こることは人員削減である。
だがそれも一度にすべての企業が行うわけではない。先に影響を受ける企業が先に雇用削減を行う。だからハイテク企業のリストラがニュースに大きく出る一方で、経済全体の状況を反映した雇用統計にはそれほど影響が表れていない。アメリカ失業率はまだ低い水準にある。
だがコストカットにしても人員削減は最後の手段である。一度切った人は戻って来ないから、企業はまず出来るだけ他の方法でコストを減らそうとする。それでもどうにもならなくなったら最後に人員削減を実行するのである。
結論
だから、ハイテク企業など高金利の影響を受けやすい企業だけが人員削減を行なっている間はまだ問題が表面化していないのである。
多くの企業が人員削減に取り組み始め、それが失業率に反映され、失業率が実際に上がってきた時にはアメリカ経済は既に手遅れの状況になっているだろう。
ちなみに商用不動産の債券については債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏が下落していて安いとして買い推奨をしていた。
ダリオ氏とどちらが正しいだろうか。楽しみに結果を待ちたい。