3月米インフレ率はサービスのインフレが減速、経済急降下確定へ

3月のアメリカのCPI(消費者物価指数)が発表され、個人的にはアメリカ経済の減速を決定的とするデータとなっていると考えている。その理由をこの記事では説明してゆきたい。

減速続く全体のインフレ率

まず、3月のインフレ率は前年同月比で5.0%となり、前回の6.0%から大きく減速した。今後数ヶ月で4%台に突入することは恐らく間違いないだろう。

インフレ率は着実に減速している。だが1年前の水準と比べる前年同月比のデータが減速していることは既に誰もが知っている。

より最近のトレンドがどうなっているのかを見るために、以後前月比年率(ここ1ヶ月の変化が1年続けばどういうインフレ率になるか)でデータを見てゆきたい。そうしなければ今後のインフレ率を予想できないだろう。

原油の下落がインフレ減速に寄与

インフレの内訳のうち、全体のインフレ減速に寄与したのはやはりエネルギーのインフレ減速である。エネルギーのインフレ率は前月比年率で-35.0%のマイナス成長となり、グラフは次のようになっている。

その理由は原油価格がここ1年間下落しているからである。

それが去年の秋以降のインフレ率減速を支えてきた。だがそれもそろそろ終わりが近づいている。何故ならば、原油価格のチャートが次のようになっているからである。

1年間の変化で言うならば、今は比較対象となる前年の数字がちょうど原油価格のピークに近い。

だが夏を過ぎれば、去年の夏以降の原油価格はほぼ横ばいである。つまり前年同月比で言えば原油価格は以後インフレ減速に寄与しないということになる。

インフレ減速は夏以降止まってしまうのか? だがこれからはエネルギー以外の要素がインフレの減速を牽引するだろう。

ついに急減速を始めた住宅価格

それは例えば下落を続けている住宅価格である。

3月の住宅関連のインフレ率は3.6%となり、6%から10%ほどで推移してきたここ1年のトレンドを下離れた。

ついに来たという感じである。何故ならば、住宅価格自体は去年から既にマイナス成長だからである。

何故住宅価格に比べてCPIの住宅関連要素が遅延しているかということは、経済学者のラリー・サマーズ氏が以下の記事で説明してくれている。

だがその遅延もついに終わったということだろう。ここから住宅関連のインフレは住宅価格の下落に追随してゆくことになる。

下落トレンドに入ったサービスのインフレ

そして最後に、長らく減速しないままだったサービスのインフレだが、サービス(エネルギー関連除く)のインフレ率は5.5%となり、チャートは以下のようになっている。

前月の7.7%から大きな減速である。また、チャートとしてもピークを打ったような動きとなっている。

サービス業の主なコストは賃金であり、雇用統計に対するサマーズ氏の分析も合わせて考えると、サービスのインフレもピークに達したか、あるいは少なくともピークに近いと考えて良いのだろう。

コアインフレ率はやや減速

ちなみに原油価格などの影響を除いたコアインフレ率(食品とエネルギーを除く)は4.7%となり、前回の5.6%からやや減速している。

全体のインフレ率5.0%がようやくコアインフレ率に近づいてきた。原油価格の減速効果が打ち消されつつある証拠である。

だから今後は住宅やサービスのインフレ次第ということになり、それはここから徐々に減速してゆくだろうが、4%台から3%台に到達するまでにはそこそこの時間がかかるだろう。

その間政策金利は少なくともある程度高止まりさせなければならないことになる。だが金利を高止まりさせれば、シリコンバレー銀行の破綻などの問題はますます他の場所にも波及してゆくだろう。

アメリカ経済にはチェックメイトがかけられている。

結論

ということで、ついに住宅とサービスが明らかな減速となった記念碑的なCPI統計となった。

ちなみにこの状況はアメリカ経済の先行きを占う上でも非常に重要である。何故ならば、CPIにおける住宅やサービスの減速が始まるのは実体経済全体が減速を始める時だということを以下の記事で分析しておいたからである。

つまり、住宅やサービスのインフレ率が減速し始めているということは、やはりいよいよアメリカ経済も減速を始めるということになる。

その兆候は中小企業への融資状況など様々なデータにも表れている。

この状況は、ジョージ・ソロス氏が『ソロスは警告する』においてリーマンショック前に次のように述べた状況に近い。

2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。

シリコンバレー銀行の破綻や様々なデータが危険信号を発しているにもかかわらず、政府関係者と株式投資家だけが呑気に余裕をかましている。

経済は減速している。今回のCPIにも他のデータにもそれが表れている。その事実を黙殺せずに真剣に向き合った投資家だけが利益を得ることが出来るだろう。


ソロスは警告する