DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、シリコンバレー銀行の破綻後のアメリカの銀行の融資の状況についてTwitterで語っている。
金利が高止まりしている中、アメリカの中小企業はそもそもお金が借りられなくなってしまうのだろうか。
シリコンバレー銀行破綻の影響
以下の記事で説明した通り、インフレを抑制するためのFed(連邦準備制度)の利上げによって、シリコンバレー銀行は破綻した。
現金をかき集めようとしたものの、売却可能な債券をすべて売っても現金を確保できなかったシリコンバレー銀行の前例を見て、アメリカの地方銀行がどうするのかということが金融市場で注目されている。何故ならば、現金が不足している状況で銀行が一番やりそうなことは、貸し渋りだからである。
当然ながらお金を貸さなければ銀行は現金を確保することができる。シリコンバレー銀行の破綻後、銀行としては当然の選択肢である。
だがシリコンバレー銀行が破綻したそもそもの理由が、シリコンバレーのスタートアップたちが金融引き締めで資金調達に困っていたということである。それでお金を引き出さざるを得なくなり、シリコンバレー銀行から現金が流出した。
その状況で銀行がお金を更に貸さなくなればどうなるか? 銀行の預金者である中小企業には更にお金がなくなり、彼らは更に預金を引き出さなければならなくなるだろう。
銀行危機の負のスパイラル
だがこれらは単に理論上の話である。理論はデータで裏付けされなければならない。
ではシリコンバレー銀行の破綻後、アメリカの中小企業に対する融資の状況は実際どうなっているのか? ガンドラック氏は次のようにツイートしている。
NFIB中小企業向け信用状況指数が急落している(最近の銀行破綻を考えれば当然だ)。指数は今や2007年後半から2008年前半の水準まで落ちている。
NFIBの中小企業向け信用状況指数とは、利用可能な中小企業向けのローンがどれだけあるかを示したもので、NFIBのレポートからそのグラフを引用すると次のようになっている。
アメリカの中小企業は着実に融資にありつけなくなっている。
それがシリコンバレー銀行の破綻を引き起こしたのだから当然である。融資の減少と預金の減少はほとんど同義である。預金とマネーサプライがほぼ同義だからである。インフレを抑制するために市中の資金量(マネーサプライ)を抑制するというのは、銀行から預金がなくなるということである。
上のチャートを見れば、ガンドラック氏の指摘通りリーマンショック直前の2007年後半から2008年前半の水準まで落ち込んでいることが分かる。
2008年の大底まで落ち込んでいないのは、2023年版リーマンショックがまだ起きていないからである。銀行は危機が明らかになってから融資を止める。
だから投資家にとって「底値までまだ行っていないから大丈夫だ」という議論は成り立たない。「どこまで状況が悪くなれば売るか」と聞かれた時のジム・ロジャーズ氏の回答をもう一度載せておこう。
質問は「状況がどれだけ良ければ」の間違いだろう。状況が本当に酷ければ、底値で売りたくない。
だからリーマンショック直前の水準まで信用状況が悪化していて、しかも株価がまだそれほど落ちていない今の状況は、投資家にとって最悪だと言える。本当に状況が最悪になればそれは買い場だからである。だが今状況は「買い場」に向かおうとしている。
何の根拠もない市場と政府関係者の楽観
あらゆる証拠がアメリカ経済が景気後退に向かっていることを示唆している。株価は下落トレンドを続けており、債券市場の債券利回りはかなり厳しい景気後退を示唆している。住宅価格は下落を続けている。
経済学者のラリー・サマーズ氏が次のように述べていたことを思い出したい。
PMIのような将来に関する今週の数字を見れば、非常に弱い数字となっている。新しい季節調整の適用された失業保険申請者数を見れば、以前より大幅に弱くなっていることが分かる。求人の数は下がってきている。
論理とデータの両方が銀行危機の継続を示唆している。例えばFedの前議長でマクロ経済学者である財務長官のジャネット・イエレン氏であれば、こうした状況について深い洞察を持っているのではないか。彼女は昨日次のように述べている。
信用縮小は可能性の1つではあるが、それが起きているという証拠はまだ見ていない。アメリカの銀行システムは強いままだ。
アメリカ経済は明らかに極めて良いパフォーマンスとなっている。
景気の減速は予想していない。勿論リスクはあるが。
政府関係者は本当にもう駄目なのだと言わざるを得ない。彼らこそ本当に経済予想に関して「明らかに極めて良いパフォーマンス」を叩き出している。
ちなみに株式市場もイエレン氏と同じ意見のようである。3月のシリコンバレー銀行破綻からの値動きを見てもらいたい。
まあ好きに考えれば良いのではないか。彼らが何を考えようが筆者にはどうでも良いことである。頑張ってもらいたい。