サマーズ氏: 経済予想を間違い続けている中央銀行は自分探しの旅に出るべき

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、Fed(連邦準備制度)の金融政策が次は誤らないためには何をすれば良いかについて語っている。

中央銀行の骨董品的な経済モデル

アメリカの中央銀行であるFedは、2021年には既に生じていた物価高騰を長い間「インフレは一時的」と言い張ることで放置し、金融緩和を続けてインフレを悪化させた。

サマーズ氏は債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏らと共に、2021年からインフレの脅威を警告し続けてきた専門家の1人である。

こうしたFedの経済予想と金融政策を、サマーズ氏は次のように評している。

Fedは彼らの経済モデルと組織的な判断プロセスに依存してきた。そして彼らの判断プロセスはインフレを非常に長い間非常に誤った形で判断してきた。

「経済モデル」と言うときに思い出されるのは、例えばフィリップス曲線だろうか。労働市場が強まればそれだけでインフレが起こると何の根拠もなく主張する、経済学の教科書に載っている考え方だが、Fedは前議長であるジャネット・イエレン氏の時代あたりまでこの根拠のない経済モデルに従って金融政策を決めてきた。

現在のFedはこのフィリップス曲線という骨董品を既にある程度捨て去っているが、最近日銀総裁に就任した植田氏はいまだにフィリップス曲線に言及しており、筆者は少し驚いたことを以下の記事で書いている。

何故彼はいまだにフィリップス曲線などと言っているのか。植民地政策に遅れて参加してすべての責任を押し付けられた日本人のやることなのだから、何か独創的な考えがあるのだろう。

一方で、ここの読者ならば労働市場は単に物価の一部であるサービス価格に影響する要素でしかないことを理解するだろう。中央銀行総裁より深く経済を理解することは、残念ながらそれほど難しくない。

永遠に間違い続けるFed

しかし1回の間違いでFedを責めるのは可愛そうではないか。誰にでも間違いはある。彼らは今回たまたま間違っていただけかもしれない。

だがサマーズ氏は無慈悲にも次のように言う。

そして彼らの判断プロセスはシリコンバレー銀行などいくつかの銀行で起こっていたことを見逃した。

以下の記事で説明したように、シリコンバレー銀行の破綻は、主に彼らの顧客だったシリコンバレーのスタートアップが高金利によって資金調達できなくなったこと、そしてシリコンバレー銀行自身が保有していた債券の価格が金利上昇によって下落したことが原因である。

つまりはシリコンバレー銀行の破綻はFedの利上げの結果なのである。にもかかわらずFedは3月のFOMCで次のように言い放った。

アメリカの銀行システムは健全で強靭だ。

自分の行動の結果として起こっていることを黙殺するこの姿勢は、コロナ以前の金融引き締めによって起きた2018年の世界同時株安のことを思い出させる。当時、株価の下落と量的引き締め(バランスシート縮小)についてパウエル議長は次のように言っていた。

現在の短期的な混乱は多くのファクターが原因となっており、バランスシートの縮小が原因だとは思っていない。

バランスシートの縮小は大した問題を起こしていない。

だが結局株価は下落を続け、Fedは引き締めの撤回を余儀なくされた。

更に言えば、Fedは2008年のリーマンショックの直前、サブプライムローンの問題は不動産業界に限られた問題であり、アメリカ経済全体とは関係がないと主張していた。

年末のスコット・マイナード氏の以下の言葉が思い出される。

エビデンスに基づけば、Fedの予想は常に間違っていると言える。

サマーズ氏は次のように述べる。

Fedは真面目な自分探しの旅に出る必要があるだろう。

結論

サマーズ氏がそれが特に今必要だと考える理由は、Fedがもう一度間違いを犯しそうな局面が近づいてきているからである。

彼はインフレ後の経済がこれまでの経済とまったく異なる世界であることを指摘している。何故ならば、これまでの世界は金融緩和と低金利を前提としてきた一方で、コロナ以後はインフレによって高金利が長期間続くと予想されるからである。

高金利によって何が変わるか? まずこれまでゼロ金利によって延命されてきたゾンビ企業が淘汰されている。それで利益を出していなかったシリコンバレーのスタートアップに金がなくなったのである。

他には預金者の行動の変化が挙げられる。サマーズ氏は次のように述べる。

これまでの金融システムは、多くの家計が自分たちの貯金に対して金利がほとんど付かないことを許容していたことに依存してきた。

これまで銀行は預金に金利を払わなくとも良い世界に慣れてきた。だが利上げの後、人々はただでお金を預けようとはしなくなりつつある。

銀行はこれまで無コストで調達した資金を債券などに投資していればそれで商売になった。だがそうはいかなくなる。それが今既に苦しんでいる銀行を更に苦しめる。

高金利の影響はそれだけではない。不動産業界は不動産ローンの金利が上がって苦しんでいる。そして低金利によって40年間上昇トレンドを続けてきた米国株も、これからはそうはいかなくなる。

世界は低金利に慣れすぎている。だから高金利の影響はまだまだこれからである。

サマーズ氏はそれを警告している。専門家が言うことは皆同じである。