3月のアメリカ失業率低下はアメリカ経済終了のサイン

今金融市場でもっとも重要であると言っても過言ではないアメリカの雇用統計が発表された。何故それが重要であるかと言えば、アメリカのインフレは原油価格の下落で下落基調だが、サービスのインフレだけは加速を続けており、賃金がサービス業の主なコストだからである。

低下した失業率

まず失業率だが、3月のアメリカの失業率は3.5%となり、前月の3.6%から下落した。グラフは次のようになっている。

当然ながらこのニュースに市場は金融引き締め側で反応した。失業が増えておらず労働市場が強いのであれば、サービスのインフレは継続する可能性が高く、中央銀行は高金利を維持しなければならなくなるだろうからである。

今後の政策金利の推移を織り込んで動く2年物国債の金利は発表後に多少上がった。

だが失業率のチャートを見れば、2022年春以来下げ止まりが続いていると見るべきだ。次に賃金を見てゆきたい。

賃金の推移

一方で賃金がどうなったかと言えば、平均時給の上昇率は前年同期比では下がったが前月比年率では上がった。

前年同期比が直近1年の時給の変化を表す一方で、前月比年率は直近1ヶ月の変化が1年続けばインフレ率はどうなるかを示す。前月比年率には2月と3月の季節的な違いを人為的な計算で調整する短所があるものの、最新のデータが重要である現在の状況を考えて前月比年率のデータで紹介しよう。

平均時給は前月比年率で3月に3.3%上昇し、前月の2.6%から加速した。だがチャートは次のようになっており、ここ1年のトレンドで言えば減速している。

これをどう考えるかである。

雇用統計をどう解釈するか

筆者の意見では、経済指標には様々あるなかで雇用統計は一番後にトレンド転換する指標であり、それを待っていては経済を予測できないということである。勿論毎回の数字を確認することは重要なのだが、遅行指標は未来については教えてくれない。労働市場の減速が明らかになる頃には、実体経済は既にかなりまずい状態に陥っていることだろう。

ではどうすれば良いか。まず一番トレンド転換が早く、しかも非常に重要なのは、金融市場の動きである。債券市場は引き続き経済減速を示唆している。ジェフリー・ガンドラック氏ら債券投資家は債券市場の示唆を重視することで去年秋のアメリカのインフレ急減速を予想的中させた。

次に重視すべきはシリコンバレー銀行の破綻のようなニュースである。

もうここの読者には言う必要もないことだが、経済危機においてはこういうニュースが断続的に何度も起こる。そしてそれが起きるたびにニュースの深刻さは増してゆく。

だからシリコンバレー銀行の破綻が1つあった時点で、ゴキブリが1匹居れば100匹も200匹も居ると思うべきであり、そういうニュースは雇用統計のように毎月は投資家に知らせを送ってはくれないが、1匹を重要視して忘れないことが重要である。そうしなければベアスターンズの次にリーマンブラザーズが破綻してしまうからである。

結論

だがFed(連邦準備制度)は「アメリカの銀行システムは健全だ」と見当外れのことを言っている。シリコンバレー銀行の問題が個別の銀行の問題ではないことは、その破綻の理由を詳しく見てゆけば分かる。

だが市場も当局もそれを既に忘れていそうだ。だが彼らが忘れていても金利が高止まりする限り経済を蝕み続ける。

雇用統計は、今回1回だけを見ずにトレンドを見ればやはり強気の終わりが近いとは思う。だがそれよりも重要なのは、雇用統計が強いのは経済には弱気のサインだということである。高金利継続がコンセンサスになればなるほど、銀行危機が悪化する可能性が高まる。だがこの問題に市場も当局も気付いていないようである。