市場がやや荒れている。原因は確かにリスクオフなのだが、しかし単にリスクオフと言うのではなく、状況をより厳密に理解することが必要である。
6月23日にイギリスで行われるEU離脱を賭けた国民投票で、投票日直前になりEU離脱派が勢いを増していることを受け、金融市場は円高株安の様相を呈している。
また、6月の決定会合でFed(連邦準備制度)がアメリカ経済にやや弱気な見方を示したこと、そして日銀が特に何も出来なかったことも日経平均やドル円のマイナス材料になっている。
ドル円下落の原因
FedのFOMC会合についてはイギリス国民投票前の様子見で特に言うことがなかったが、前回の会合で一人だけ利上げを主張していたカンザスシティ連銀のジョージ総裁が今回の会合では利上げ主張を取りやめたことは一つハト派の証拠と言える。
日銀については4月の会合と同じ反応であるので付け足すことがない。その時の記事を少し引用しておこう。
市場がこのように中銀の現状維持に対して大きく反応するのは、投資家がパニックになっており、藁にもすがろうとして、その藁さえも与えられなかったと分かった時の売りなのである。はっきり言うが、日銀の追加緩和は藁に過ぎない。(中略)しかし興味深いのは、それでも日銀の緩和から円安株高という古ぼけたシナリオを2016年になってもまだ持っていて、それにすがりながらドル円と日経平均をロングしている人々が日本にはまだ居るということである。まさにガラパゴスではないか。
しかし、いまだに市場がこの反応をしているということは、ドル円や日経平均にすがっている人々のポジションがまだかなり残っている可能性を示している。わたしのドル円の長期予想レートは80円だが、この分だと予想よりもかなり早く到達してしまうかもしれない。
イギリスのEU離脱
しかし中央銀行の動きはこれまで述べてきた通りであり、現在の不確定要素はイギリスのEU離脱が引き起こすリスクオフである。
そもそも何故リスクオフで円高になるのか、投資家は理解しているだろうか? 理由の一つには、機関投資家などは円を含む低金利の通貨を借り入れ、その円を売ることで資金調達をしているから、彼らがリスクポジションを精算する際には調達通貨である円が買い戻されるというのは一つの原因である。しかし金融市場にはより分かりやすい原因が存在する。それは各国の長期金利の動きである。
リスクオフによって先ず金融市場で起こることは長期金利の低下である。投資家は株式などのリスクポジションを精算し、よりリスクの低い国債などに資産を移すからである。アメリカの長期金利のチャートは次のようになっている。
1.88%から1.59%まで0.29%ほどの下落となっている。
ここで問題となるのは、世界中でリスクオフが起こる時、各国の長期金利の低下の度合いは同一ではないということである。これをドイツおよび日本の長期金利と比べれば次のようになる。
- 米国: 1.88% -> 1.59% (-0.29%)
- ドイツ: 0.20% -> 0.02% (-0.18%)
- 日本: -0.10% -> -0.20% (-0.10%)
どの国の金利が一番下がったか、一目瞭然だろう。米国の金利が一番下がったのであり、その結果ドルの下落幅が一番大きくなっているのである。この下落幅の差こそがリスクオフにおける為替相場変動の一番明確な原因であり、円高になれば日経平均も下落するということである。
下がらない日本の長期金利
日本の長期金利が下がらない理由はいくつかある。先ず第一に挙げられるのは、これまでも言ってきたように日銀が弾切れになったからである。日銀の追加緩和にはいくつかの手段が残されているが、しかし長期的にドル円に効くものは存在していない。
そしてもう一つは、金利はそもそもゼロを大幅に超えて下がらないということである。日本の長期金利はほとんど底に達している。これからも少しは下がるかもしれないが、その時にはアメリカの長期金利がより大幅に下がるだろう。アメリカの金利にはまだまだ下落余地がある。そして両方の国の要因を考えたとき、ドル円が最終的に何処にたどり着くかと言えば、それはこれまで予想している通りである。
何故金融市場は荒れているのか? 短期的には色々なことがあるだろうが、しかし長期的には世界経済は80年に一度の恐慌に向かって進んでいる。安倍首相が伊勢志摩サミットで述べた「リーマンショック」再来予想は、予想の根拠は間違っているものの結論は正しいのである。優れたヘッジファンドマネージャーらはそれに気付き、既にポジションを開始している。
個人投資家はどうだろうか? 日銀会合への反応から見るに、大半は好ましくないポジションを抱えているようである。