DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューでシリコンバレー銀行の破綻に始まる世界的な銀行危機について語っている。彼によれば、他の誰もがそう言っているが、まだ何も終わっていないようだ。
世界的な銀行危機
アメリカ史上2番目の規模の銀行破綻となったシリコンバレー銀行の破綻は、Fed(連邦準備制度)の金融引き締めで苦境に陥ったシリコンバレーのスタートアップたちが預金を引き出したことが発端で起こった。
インフレ抑制のための金融引き締めで元々自転車操業だったハイテク企業が真っ先に苦境に陥っていたのは、金融業界ではよく知られていた。去年の始めにはジョージ・ソロス氏がそれを見越してNasdaqを空売りしていた。
だからシリコンバレー銀行の破綻で明らかになったことはニュースでも何でもない。金融引き締めという去年から誰もが知っている事実の結果の一端が表れただけに過ぎない。
取り付け騒ぎは始まったばかり
だがガンドラック氏はむしろ今後のことについて語っている。ガンドラック氏によれば、次に預金を引き出し始めるのはスタートアップではなくアメリカ国民である。
彼は次のように述べている。
多くの人が6ヶ月物の米国債に5%の金利が付いているという事実に気付かずに、自分の預金について何も考えずに居眠りしていた。
Fedは利上げを行なった。それは当たり前だが金利が上がったという意味である。
だが、アメリカに口座を持っている人ならば分かることだが、多くの銀行は定期ではない預金に対する金利を上げていない。政策金利は4.75%まで上がっているのに、アメリカの銀行口座にお金を預けていても金利が付かないのである。
ガンドラック氏の言うように6ヶ月でなくとも、普通の預金にも4%程度の金利は付いても良いはずだ。だが、多くの銀行は金利を付けなくとも顧客は離れないだろうとたかをくくって金利を上げていなかった。
銀行の苦境は続く
ガンドラック氏は次のように続ける。
だがこの事実は今や新聞やテレビ番組で誰もが知っている。だからGDP比で見た預金の規模がこれから大きく減少してもまったく驚かないだろう。
人々は銀行にお金を預けることで4%の金利を捨てているということにようやく気付き始めている。これは銀行にとって資金難に繋がる。
例えば銀行口座ではなく証券口座にお金を預ければ、政策金利に近い金利が付くことになる。
あるいは仮に金利が付かない証券口座だったとしても、MMFに連動するETFに投資する方法を以下の記事で紹介しておいた。
こうした記事で紹介していた投資法に、アメリカ国民もようやく気付き始める。そして銀行からお金がなくなってゆく。
そして銀行からお金がなくなるということは、銀行がお金を貸せなくなるということである。ガンドラック氏は次のように言う。
地方銀行は小規模事業者への融資の供給源となっている。そして明らかにそれは減少してゆくだろう。
そして小規模事業者の預金が減り、銀行が更に苦境に陥る。これがレイ・ダリオ氏が言っていたことの意味である。
銀行危機の原因
何故銀行危機が起こってしまったのか? どうすれば防げたのか? ガンドラック氏は次のように説明する。
Fedが本当に遅すぎた。
Fedはもっと早く利上げすべきだった。そうしなかったのでインフレが来てしまった。
シリコンバレー銀行は保有債券をすべて売却して現金を集めようとしたが、保有債券の価格が大きく下落していたことが問題となった。
だが債券にとって金利上昇は価格下落を意味するので、直接的には利上げが債券価格を下落させたのである。しかしガンドラック氏は次のように続ける。
Fedが利上げしたからシリコンバレー銀行の保有する長期国債に損失が生じたわけではない。利上げしなかったからそうなったのだ。
もしもっと早く利上げしていたら、長期国債の損失はもっと少なかっただろう。長期債はインフレ懸念で下落した。Fedがインフレと戦わなかったからだ。
意味が分かるだろうか。2021年、インフレは既に問題となっていた。そしてガンドラック氏や筆者のような金融業界の人間は、「インフレは一時的」であると根拠なく主張して利上げをしなかったパウエル議長を批判した。
基本的に政府関係者の発言には根拠がない。
例えばインフレが2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で生じたという妄想(より正確には政治的プロパガンダ)も同じである。
そういう妄想を無批判に信じている人々には2021年のインフレ(生産者物価指数を見れば日本でも起きていた)の話は意味不明だろうが、それが事実である。
マスコミや政治家の言うことを何も考えずに鵜呑みにするから他人の創作した完全な出鱈目を頭の中に詰め込むことになる。
結論
コロナ後の現金給付によって2021年には既に生じていた物価高騰を政府と中央銀行が無視した結果、現在の状況が起きている。
物価は高騰し、政策金利はもっと早く対処していれば必要なかったであろう水準まで上げなければならなくなった。そして銀行危機が起きている。
何度も言うが、現金給付や紙幣印刷は現実の問題を一切解決しない。むしろ後で必ず歪みを引き起こしてトータルでは大損となる。
だが人間は大損をすることが大好きなようだ。つみたてNISAなどという最初から詰んでいる商品に好き好んで金を払うのだから、彼らは自虐が趣味なのだろう。
2021年にこうした馬鹿げた投資法が流行ってから株価は下落しているが、まだインフレによる世界恐慌は始まってすらいない。
つみたてNISAはまさに詰みたてである。自分で考えることを放棄して頭を他人に預けた人々は、何もせずに寝ていれば金が儲かるという妄想の代償に大損を食らうだろう。
そんな方法が存在しないことは、金融業界の人間が誰よりもよく知っている。だが彼らにはそれが分からないのである。