DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューでFed(連邦準備制度)の利上げとアメリカ経済について語っている。
銀行危機と金融政策
シリコンバレー銀行の破綻とその後のクレディスイスの救済という世界的な銀行危機の後、Fedは0.25%の利上げを決定した。
銀行危機で利上げ停止という話もあったが、結局利上げは行われた。
Fedは声明文で一応利上げの継続を表明したが、ガンドラック氏は次のようにコメントしている。
これで利上げ終了となった可能性は五分五分より高いだろう。
Fedがもう利上げをしないというのがわたしのメインシナリオだ。利上げ停止の主な理由は信用縮小の不安となるだろう。
シリコンバレー銀行は現金を確保することに失敗して破綻した。売却可能な保有債券をすべて売っても現金が足りなかった。以下の記事で詳しく説明している。
それは高金利によって引き起こされた。このような状況では、銀行はほかに貸し出すよりも自分の金庫に現金を残すことを選択せざるを得ないだろう。それはFedの金融引き締めでただでさえ減っている貸付がここから更に減ってゆくことを意味している。ガンドラック氏の言う「信用縮小」とはそういう意味である。
高金利で資金調達が難しくなったシリコンバレーのスタートアップが預金を引き出したことでシリコンバレー銀行は潰れた。そしてシリコンバレー銀行が潰れたことで他の銀行は貸付が更に難しくなる。負のスパイラルである。アメリカ経済は金融引き締めでそういう状況に置かれている。
景気後退へ
ガンドラック氏はアメリカ経済の今後について以下のように予想している。
経済に対する逆風は積み上がってきている。それが話題になってから一定の時間が経っている。もうあと数ヶ月で景気後退になるだろう。
だが中央銀行家の反応はそういうものではなかったように思える。
シリコンバレー銀行の破綻の後、まずECB(欧州中央銀行)のクリスティーヌ・ラガルド総裁が0.5%の利上げを断行した。その後Fedのパウエル議長がそれに続いて0.25%の利上げを行なった。
これについて経済学者のラリー・サマーズ氏は次のようにコメントしていた。
ラガルド女史は素晴らしかった。
彼女は金融システムに問題がある時にでも必要なインフレ抑制政策を遂行できることを示した。
また、インフレと金融システムの安定という2つの問題に対しては別々の方法で対応でき、インフレの問題を犠牲にしなくて済むということを示した。
だがそうだろうか。インフレ対策を第一に考えるサマーズ氏が高金利継続を訴えているのは理解できる。だがそれでも銀行危機を悪化させないかどうかは別の問題だ。
インフレ対策の高金利と銀行危機の解決を両方達成できるとしているラガルド氏らの見解についてガンドラック氏は次のように述べている。
強く異議を唱える。それは両立できない。ケーキを後に残しながら同時に食べることはできない。
そもそも、シリコンバレー銀行の破綻がFedの金融引き締めのせいであり、シリコンバレー銀行が破綻したことによって銀行はますます貸付を渋らなければならなくなったことは上に書いた通りである。
だから高金利を継続すれば銀行はこれからも潰れるし、高金利を継続しなければインフレは止まらない。アメリカ経済は詰んでいるのであり、それはサマーズ氏も分かっているはずだ。高金利支持派のサマーズ氏としては、高金利を維持しても問題は少ないと言わざるを得ないだけだ。
だがガンドラック氏は去年から一貫して金利低下を予想している。高金利ではアメリカ経済が保たないと踏んでいるのである。そしてその予想は的中してきた。アメリカの2年物国債の金利は次のように推移している。
だがこれはまだ金利低下の始まりだろう。
ガンドラック氏は高金利を維持しても銀行危機は解決できるという姿勢について次のように述べている。
この状況はイギリス海峡を初めて泳いで渡った男のことを思い出させる。彼はニューヨーク州西部に到達してナイアガラの滝の険しい流れを見、そこを泳いで超えられると自慢した。
マスコミが来た時、彼は流れに飛び込んだ。しばらく手や足が見えていたが、その後6マイル下流で彼の死体が見つかった。
彼はそれができると自慢してしまったので対面を保つためにやらざるを得なくなった。
ソフトランディングを可能だと主張すること自体が彼らを追い込んでゆく。投資家は株式と金利とドルの下落に賭けながら高みの見物である。低金利でインフレを引き起こした彼らが悪いのだから、それ以上何が言えるだろうか。
アメリカは利上げ撤回へ
それでもFedは公式には高金利継続を表明している。だがそれに対してガンドラック氏は次のように述べている。
経済指標はこれから弱まっていくだろう。Fedがソフトランディングを達成したと誇れる状態になるかは疑問だ。経済はそもそも既に一定期間弱まっている。
Fedは利上げをした時、半分自信がなかったように思える。
彼らは結局降参しなければならないだろう。
前回のサマーズ氏のインタビューと意見が真逆なのが面白い。
筆者の意見はガンドラック氏のものと同じである。引き続き株価・金利・ドルの下落に賭けてゆく。