利上げを渋るECBのせいでヨーロッパ経済はインフレで壊滅へ

インフレ危機が世界経済を襲っている。アメリカでは銀行危機にもかかわらず利上げが続行され、深刻な景気後退が懸念されている。

だが逆にインフレにもかかわらず利上げを渋る経済圏にはもっと酷い地獄が待っている。例えばヨーロッパ経済である。

欧米の物価高騰

未曾有の物価高騰を受けてアメリカは利上げを断行した。アメリカの政策金利は4.75%まで上がっている。

だがそのお陰もあり、9%台だったアメリカのインフレ率は現在6.0%まで下がっている。

一方、ヨーロッパではインフレ率はアメリカより高く、8.5%まで上がっている。

それでも原油価格が下がっているため、ユーロ圏のインフレ率もピーク時の10.6%からは下がってはいる。原油価格のチャートは次のように推移している。

だが今後のインフレ見通しに関しては、アメリカとヨーロッパでまったく異なると言って良いだろう。

欧米の利上げ速度の差

その理由は中央銀行の態度の違いである。

アメリカでは比較的急速に利上げを行なった一方、ヨーロッパではECB(欧州中央銀行)が利上げを渋っている。ECBは8.5%のインフレ率に対して3.5%までしか政策金利を上げていない。アメリカよりインフレが酷いにもかかわらず、アメリカより金利が低いのである。

その結果は食品とエネルギーを除くコアインフレ率に現れている。アメリカのコアインフレ率は、前月比年率で見れば以下のように多少なりとも5%程度に向けて収束の兆しを見せている。

だがユーロ圏のコアインフレ率は前月比年率で次のようになっている。

  • 2023年2月: 5.6%
  • 2023年1月: 5.3%
  • 2022年12月: 5.2%
  • 2022年11月: 5.0%
  • 2022年10月: 5.0%
  • 2022年9月: 4.8%
  • 2022年8月: 4.3%
  • 2022年7月: 4.0%
  • 2022年6月: 3.7%

着実に上がっている。

これは海外情勢に大きく影響されるエネルギーや食品の価格を除いたインフレ率なので、完全にユーロ圏内部の問題である。

何故利上げ出来ないのか?

ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は利上げに対する否定的な姿勢からマダム・インフレーションと揶揄されているが、彼女はまさにその名前にふさわしい行動を取っている。

3.5%の政策金利では8.5%のインフレは絶対に抑えられない。このままではユーロ圏の物価は雪だるま式に上がってゆくだろう。

何故ECBが利上げ出来ないかと言えば、ユーロ圏が2010年のユーロ圏債務危機の頃からの問題を抱えたままだからである。

その問題とは、文化や経済がまったく違う多くの国がユーロという同じ通貨を使っているという問題である。

共通通貨の世界では加盟国すべてが同じ為替レートで貿易を行うことになる。ユーロの為替レートは経済大国ドイツから小国ギリシャまでの国々がそれぞれ本来持っていた為替レートの平均のようなものになると解釈できる。

したがってユーロの為替レートはギリシャにとっては高過ぎるが、ドイツにとっては低過ぎるため、ギリシャは多額の貿易赤字に苦しむ一方、ドイツには巨額の貿易黒字が舞い込んだ。当時の記事で説明している。

それがギリシャなどの南欧諸国の財政を悪化させ、2010年のユーロ圏債務危機を引き起こした。

ユーロの欠陥と物価高騰

そしてその構造は今も何ら変わっていない。明らかな欠陥があるにもかかわらず、共通通貨ユーロは何も改善されて来なかった。

何故彼らがそこまでヨーロッパ統一にこだわるかと言えば、ヨーロッパ人の言い分では「国々が分裂していると戦争が起きるから」らしい。

だが長年小国が集まっている世界の他の地域はヨーロッパ人たちほど絶え間なく戦争をしていたわけではないという事実を彼らは見逃している。戦争は単にヨーロッパ人の趣味であり、彼ら特有の問題である。

そしてその共通通貨の問題がユーロ圏を再び襲っている。ユーロ加盟国のインフレ率の一覧を見てもらいたい。

  • エストニア: 17.6%
  • クロアチア: 11.9%
  • オーストリア: 10.9%
  • アイスランド: 10.2%
  • イタリア: 9.1%
  • ドイツ: 8.7%
  • ユーロ圏: 8.5%
  • ポルトガル: 8.2%
  • オランダ: 8.0%
  • フランス: 6.4%
  • ギリシャ: 6.1%
  • スペイン: 6.0%
  • ルクセンブルク: 4.3%

すべての加盟国を抜き出したわけではないが、このようにユーロ圏内でインフレ率が完全にまばらとなっている。

だからルクセンブルクに適切なように金利を低く設定するとエストニアはハイパーインフレになり、エストニアに適切な高い金利水準にするとルクセンブルクは大不況になる。

ユーロ債務危機とまったく同じ問題が今回のインフレ危機にも生じている。

ヨーロッパ経済は崩壊へ

この問題については以前も言及したが、最新のデータを共有しておく。何より重要なのは、低い政策金利のためにコアインフレ率が何のためらいもなく上がり続けているということである。

ECBは完全に詰んでいる。その度合いはアメリカの比ではない。ユーロ圏においては適切な政策金利の水準というものがそもそも存在しない。どの金利水準にしても一定数の国にとっては酷い金融政策となる。

このユーロ圏の政策金利の問題は何処へ行くのか。筆者の予想では、ECBはユーロ圏全体のインフレ率に近づく水準には金利を上げられないだろう。つまり、ユーロ圏全体を見た場合に必要な政策金利よりも低い水準に政策金利を保ち続ける。

金利を高くすると、不況になった加盟国が怨嗟の声を上げ始める。そしてヨーロッパ人にとってはそれは許容できない。何故ならば、彼らの言い分では、ヨーロッパ人はユーロ圏が崩壊すると互いに戦争を始めるからである。

結論

ヨーロッパ人とは大変面白い人々ではないか。ちなみにそういう馬鹿げた騒ぎにユーロ圏の真ん中に居ながら参加していない国がある。スイスである。

スイスのインフレ率は-0.5%と何とデフレである。コアインフレ率は上がってはいるものの2.4%と他国と比べればかなり低い水準に抑えられている。

借金と紙幣印刷で無節操に支出をする風潮を嘆いたレイ・ダリオ氏が聞いていたではないか。

収入以上に支出しておらず、負債以上の資産を持っており、国民間の対立が少ない国は何処か?

スイスは相対的にそこに近い国である。だからユーロ圏はこれから不可避のインフレ加速で死んでいく一方で、スイス経済はヨーロッパにおける相対的な優位を保ち続けるだろう。

その長期トレンドを如実に体現しているチャートが、ユーロスイスフランのチャートである。下方向がユーロ安スイスフラン高となっている。

ヨーロッパ人がこれからも愚かであり続ける限り、このチャートは長期的に下がり続けるだろう。その理由については以下の記事を読んでもらいたい。