3月FOMC会合結果、パウエル議長に2018年世界同時株安の影が見え始める

米国時間3月22日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は金融政策決定会合であるFOMC会合を行ない、市場の予想通り0.25%の利上げを決定した。政策金利は4.75%となる。

シリコンバレー銀行破綻などの銀行危機で利上げ停止も囁かれていたが、パウエル議長は利上げを実行した。にもかかわらず市場は金利低下・ドル安で反応している。その理由を解説したい。

シリコンバレー銀行破綻後のFOMC会合

今回のFOMC会合は言うべきことが多い。まず会合後に発表された声明文だが、シリコンバレー銀行の破綻に触れている。その箇所は次の文で始まる。

アメリカの銀行システムは健全で強靭だ。

こういう言葉は銀行システムが健全で強靭ではない時にだけ強調しなければならない言葉である。本当に健全で強靭なら誰もわざわざそう宣言する必要がない。もうここで既にフラグが立っている。

銀行危機については会合後のパウエル議長の記者会見で触れられているので後でもう一度言及するが、声明文で一番重要なのは今後の利上げについて述べた部分だろう。

前回の声明文には利上げ継続を示唆する次の文言が存在していた。

引き続きの利上げが適切になると予想している。

だが今回その箇所は以下の文言に変更されている。

いくらかの追加の引き締めが適切となるかもしれないと予想している。

今後の利上げがかなり曖昧なことになってきた。

パウエル議長の銀行危機への反応

声明文と同時に発表された、会合参加者の今後の利上げ予想をプロットしたドットプロットは、中央値であと1回の利上げを見込むなど大枠では変わっていないものの、細かい部分では多少タカ派に変更されている。

だが市場は声明文の方を信じているようだ。今後の利上げ予想を織り込んで推移する2年物国債の金利は、会合のあと急落した。

だが政策金利の今後の動向は、結局はパウエル議長が記者会見でシリコンバレー銀行破綻に対してどう反応したのかによるだろう。

彼は記者会見で次のように述べている。

シリコンバレー銀行の破綻は例外的な事例だ。銀行システム全体に広く存在する脆弱性ではない。

シリコンバレー銀行の経営者はひどく失敗した。

パウエル氏は面白いことを言う。以下の記事で決算書を取り上げて詳しく説明したように、シリコンバレー銀行の破綻は顧客であったハイテク企業が金融引き締めで窮地に陥ったこと、そして保有債券の価格が金融引き締めで暴落したことが原因である。

そして筆者を含む複数の専門家がこれが氷山の一角に過ぎないことを指摘している。

だがパウエル氏は次のように言う。

この件が経済に大きな影響を及ぼすのかを判断するには本当にまだ早すぎる。

今後利上げが必要ならば、そうする。だが今のところは信用の引き締まりの可能性を注視したい。

弱気な発言ではないか。

しかしパウエル氏が根本的に間違っているのは、シリコンバレー銀行の破綻は経済危機の原因ではなく金融引き締めの結果だということである。だから状況を判断するために待つ必要など何もない。

だが銀行危機を自分の金融引き締めのせいではないと主張したパウエル氏の言葉は筆者にとって非常に興味深い。何故ならば、それは2018年に金融引き締めが引き起こした世界同時株安に対し、それは自分のせいではないと主張した過去のパウエル氏と重なるからである。

彼は株価急落の中、次のように言っていた。

現在の短期的な混乱は多くのファクターが原因となっており、バランスシートの縮小が原因だとは思っていない。

だが結局は金融引き締めのせいであり、パウエル氏は後で撤回を余儀なくされることになる。

2018年と重なるパウエル議長

金融引き締めが引き起こしている市場経済へのダメージに目を逸らすパウエル氏が、2018年の姿と大きく重なる。パウエル氏は市場に問題がない間は「インフレ抑制のために必要なことは何でもやる」と言っていたが、それがもう既にかなり揺らいでいる。

スタンレー・ドラッケンミラー氏とラリー・サマーズ氏の懸念がそのまま的中している。

しかし危機の原因から目を逸らす行為は必ず危機をもう一度引き起こす。そしてパウエル氏はどんどん追い込まれてゆくだろう。

また、今回もう1つ注目すべきは、金利低下とドル安にもかかわらず、株価が大きく下がったことである。

株式市場もこの不穏な空気を感じ取っているのかもしれない。

結論

ということで、インフレ退治はいとも簡単に店仕舞いとなりそうだ。パウエル議長は記者会見で利下げ期待を否定したが、それもかなり怪しいと言うべきだろう。

結局のところ、去年亡くなった債券投資家のスコット・マイナード氏の最期の予想が正しかったということになる。彼は次のように述べていた。

様々なFedの連銀総裁たちと話す機会があって明らかだと思ったのは、Fedは何かが壊れるまで引き締めを強行するだろうということだ。

また、ここまでの動きはすべて筆者の予想通りである。金利低下、ドル安、株価下落に賭けている筆者としては、今回の市場の動きは満額回答と言えるだろう。

パウエル氏は次のように述べている。

だが、ソフトランディングへの通路はまだ残っていると思っている。

頑張ってもらいたい。