世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のブログより、今回はFed(連邦準備制度)が現在の金融引き締めから金融緩和に転換せざるを得なくなる話をしている部分を紹介したい。
銀行危機と金融政策
シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行が破綻して、クレディスイスが債券保有者の尊い犠牲のもとで救済された。
興味深いのは、これらの銀行危機が始まってからまだ2週間も経っていないということである。たった2週間であらゆるイベントが起きた。これからどうなるのか。
まず思い出しておきたいのは、これらの危機が2022年から始まっているインフレ対策の金融引き締めによって起こっているということである。以下の記事で説明したシリコンバレー銀行破綻の経緯を理解すればそれは明らかだろう。
そして金融引き締めで経済が弱まり、Fedが金融緩和を強いられるということは、筆者は去年の間から予想しておいた。
Fedはまだ利下げをしたわけではない。だが金融市場は年内の利下げを織り込みつつあり、またシリコンバレー銀行の預金者救済が緩和と同じことだというジェフリー・ガンドラック氏の指摘もある。
それについてはダリオ氏も同意見であり、彼は次のように述べている。
こうした救済は中央銀行が紙幣を印刷して負債を買うことによって行われる。
紙幣印刷再開のコスト
だが何度も言っているように、経済的損失を紙幣印刷で埋め合わせることはできない。紙幣を印刷しても人々が消費できる商品やサービスの量は同じである。それは誰も救済していない。誰もが救済されたかのような気分になるだけである。そしてインフレが起こる。
インフレ対策で2兆円をばら撒くと言っている何処かの放火魔の話は論外だが、インフレで日本の先を行くアメリカはやりたくもないのに再び紙幣印刷を強いられる状況に陥っている。
預金者を助けなければ預金者が死ぬ。しかし預金者を紙幣印刷で助ければ経済がインフレで死ぬ。必要もないのに紙幣印刷でインフレを引き起こす自由を持っている日本は何と幸せだろうか。だが彼らはこうしたアメリカの窮地が紙幣印刷で生まれたということを知っているのだろうか。あるいはただの馬鹿なのか。
ちなみにシリコンバレー銀行とシグニチャー銀行を救済するためにFedはGDPの1%以上の資金を供給した。だが筆者やダリオ氏の言う通りこれが金融引き締めによってアメリカ経済全体に発生している大量の損失の氷山の一角であり、これからも同じような危機が起き続けるとすれば、Fedはどれだけの紙幣を印刷してそれらを救済しなければならないのか?
ダリオ氏は次のように続けている。
こうした状況は疑問を生む。こうした紙幣と信用の創造はどういうコストをもたらすのか?
アメリカの政府債務と支払い義務の莫大な量、そしてそれが今後大きく増えることを考えれば、国債の供給が需要を大きく上回るリスクは高く、それは市場と経済にとって高過ぎる実質金利をもたらし、債務者と経済全体への痛みを増大させるだろう。
それは最終的にはFedに利上げと債券売却(量的引き締め)から利下げと債券購入(量的緩和)への転換を促すことになる。
アメリカの緩和転換は筆者の去年からのテーマであり、それに沿って2年物国債の買いとドル円の売りを行なっている。
それはシリコンバレー銀行の破綻のような突発的な事故がある程度の頻度で起こり続けることで実現されてゆく。投資家は馬鹿なのでシリコンバレー銀行の破綻ももう少しすれば忘れるだろうが、2008年にベアスターンズの次にリーマンブラザーズが破綻したように、また次の事故が起こることで頭をもう一度叩かれるのである。
そしてダリオ氏によれば、彼らが次に頭を叩かれるまでそれほどかからないようだ。彼は次のように予想している。
次の利下げと量的緩和についてはまだ議論されていないが、それについて考えておくべきだ。何故ならば、それまで恐らく1年もないからであり、それは大きな影響を生む。
それが紙幣の価値を大きく毀損する可能性は高いだろう。だから今後1年か2年の経済と金融市場の見通しは厳しい。
結論
今回のFedの対応を見て確信したことがある。今回の金融危機は緩和再開からのインフレ第2波に繋がってゆく。
投資家は何が出来るだろうか? 対策については既に年始に書いてあるので、以下の記事を読んでもらいたい。今年は本当にこういう年になりそうだ。
コモディティ買いのタイミングを考えておくべきである。政治家や中央銀行家は誰かを救済する名目で経済をインフレにより壊滅的状況に追いやるだろう。
自分でインフレを回避できない投資家ではない人々は死ぬだろうが、インフレ下でインフレ政策を続行しているようなまぬけな政治家を選んだ有権者の自業自得である。