DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がPension & Investmentsのインタビューで、シリコンバレー銀行やクレディスイスなどの銀行危機について語っている。
事前に分かったはずのシリコンバレー銀行破綻
まずシリコンバレー銀行についてだが、破綻した経緯を決算書を見ながら解説した記事で、破綻前には次のような状態だったことを説明した。
この数字を見れば、預金者が預金の1割でも引き出そうとすれば、シリコンバレー銀行はたちまち現金不足に陥るということが分かる。
更に、シリコンバレー銀行破綻のもう1つの原因は保有していた債券がアメリカの金融引き締めで下落したことだが、ガンドラック氏は次のようにコメントしている。
シリコンバレー銀行は米国債やモーゲージ債を買っていた。国債は、テレビを付けて国債金利がどうなっているかを見れば何かを推測する必要もなく価格が分かる。単純なことだ。モーゲージ債も同じだ。価格がどうなっているかを知ることは非常に簡単だ。
だからシリコンバレー銀行のこうしたポートフォリオに何故誰も注意を払っていなかったのかまったく分からない。
これも決算書を読んで多少の計算をすればすぐに分かる話だ。だがシリコンバレー銀行の株式や債券を持っていた人々はそれをやらなかった。シリコンバレー銀行内部の人間さえそれをやらなかった。ガンドラック氏は皮肉まじりに次のようにそれを批判している。
シリコンバレー銀行でリスク管理とやらを担当していた人間は希望的観測と呼ばれるリスク管理の手法を使っていたようだ。
希望的観測によれば預金の取り付け騒ぎは起こらず、下落している債券の価格は希望的観測によればもうすぐ再上昇する。
誰もエクセルを持っていなかったようだ。
愉快な話だが、エクセルを持っている投資家がどれだけいるだろうか。自分の保有している株式や債券について必要な計算をしている投資家がどれだけ居るだろうか。
それをしていない人は、知らずの内にシリコンバレー銀行の株式を抱えているかもしれない。
ガンドラック氏はこう続ける。
それぐらいやるべきだ。金などかからないだろうに。
クレディスイスの破綻と買収
さて、最近危機に陥ったもう1つの銀行がある。スイスの銀行大手のクレディスイスである。
こちらは破綻の前にライバルであるUBSに買収された。スイス当局が関わった上でのディールである。
ガンドラック氏はこちらについては次のようにコメントしている。
クレディスイスは別の銀行危機の前触れではない。クレディスイスは元々まぬけな銀行だった。リーマンショックからほとんど立ち直ったことさえなかった。ドイツ銀行の株価がクレディスイスのように推移すればもっと心配するだろうが。
クレディスイスがこれまでUBSに吸収合併されていなかったことの方がむしろ驚きだ。
クレディスイスは潰れて当然との見方である。筆者も同意する。
クレディスイスの債券無価値化
だがこのクレディスイス救済には特異な点が1つある。こうした救済劇では誰かが損失の責任を負って犠牲とならなければならないが、通常その責任を負うのは株主である。通常は株式が無価値になってから買収が行われる。
しかし今回のクレディスイス救済では債券が無価値になった。クレディスイスに貸していたお金が返ってこなくなったということである。
普通は株価が無価値になるのに、今回は何故債券だったのか? 理由は単純だ。無価値となったクレディスイスの債券には、クレディスイスが危機に陥った時にはスイス当局が減損できるという条項が含まれていたからだ。
それで他の銀行の債券も暴落している。大多数の銀行の債券にはこうした条項はないのだが。
スイス当局としてはこの条項発動はやりたくなかっただろうが、それをやって借金がチャラになったクレディスイスでなければUBSは買収しないと言ったのだろう。
だが条項が存在する以上、その条項は使われる可能性がある。しかし市場には減損できる債券が減損されて怒っている投資家がたくさんいる。ガンドラック氏はそれについて次のように述べている。
Bloombergによれば、減損条項付きのクレディスイスの債券を愚かにも持ち続けていたトレーダーたちが、減損されたと言って怒っているようだ。
マジで? おむつを卒業してから鏡の前に立ってみろよ。罵るべき相手はそこにいるだろう。リスク管理を勉強することだ。
すべての投資家は是非ともエクセルを確保すべきだろう。そうすればおむつを卒業することができる。ポートフォリオを確認してみるべきだ。他人のふり見てわがふり直せである。