前回の記事で分かりきったニュースだと切り捨てたシリコンバレー銀行破綻だが、その分かりきったニュースが出るごとに下げてゆくのが下落相場だとも書いた。
そしてそれは今月22日のアメリカの利上げも左右することになる。今日はそれについて書きたい。
3月のFOMC会合
アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は来週FOMC会合を開き、次の利上げをどうするかを決め、米国時間3月22日に発表する。
シリコンバレー銀行の破綻前まで、この会合では前回と同じ0.25%ではなく0.5%の利上げが行われるのではないかと言われていた。先月発表された1月のCPI(消費者物価指数)統計において、金融引き締めが影響を及ぼしにくいサービスのインフレが加速し続けていることが明らかになったからである。
0.25%か0.5%か、金利先物市場ではその確率は少し前には以下のように織り込まれていた。
- 0.25%利上げ: 59.8%
- 0.5%利上げ: 40.2%
0.25%がメインシナリオだが、0.5%の可能性もかなりあるということである。
だが現在の市場の利上げ予想は次のようになっている。
- 利上げなし: 24.7%
- 0.25%利上げ: 75.3%
0.5%利上げの可能性は消し飛び、利上げがない可能性すら表れ始めている。
3月以降の利上げ
今回の会合のあとはどうなるのだろうか。今後2年の政策金利を織り込んで推移する2年物国債の金利チャートは次のようになっている。
強烈な金利低下である。
ちなみに金利先物市場によれば、政策金利は5月の会合までに5%まで上がり、そして6月の会合には4.75%に逆戻りし、7月の会合では4.5%と現在の水準まで戻ってくることを織り込んでいる。
要するに市場はもうすぐFedが2回の利下げを行うことを予想し始めているのである。
情緒不安定なMr.マーケット
去年秋のインフレ率急落から金利低下を織り込み始め、その後サービスのインフレ加速が止まらないことからもう一度急激な利上げを織り込み、そして今度は2回の利下げが今年の半ばには起こると市場は織り込んでいる。
筆者はこうした状況をMr.マーケットのいつもの癇癪だと考えて素通りしている。どうでもいい。筆者の予想は、去年末からずっと変わらずアメリカ経済のハードランディングとそれに伴う金利低下、そしてそれに伴うドル安である。
筆者は現在、株式の空売りとドル円の空売りの他に2年物米国債の買いポジションを持っている。
債券にとって金利低下は価格上昇を意味するので、ここ数日で価格は急上昇したことになる。
そしてこの年末の記事に書いておいたように、2年間利下げがないと織り込んでいた当時の市場の織り込みは有り得ない。その去年からの筆者の予想を市場は今回ようやく織り込んだということである。
また、ハードランディングシナリオにおいて株価が下落しないということも有り得ない。
そしてアメリカの金利が低下し株価が下落するならば、ドルは下落することになる。
すべて事前に書いておいたではないか。
結論
いつものことだが、筆者の予想を金融市場は数ヶ月ほどかけて織り込み始める。2018年の世界同時株安では、筆者が空売りを始めてから実際に株価が急落するまで1、2ヶ月掛かった。
2022年には1月の以下の記事で筆者は米国株の空売りを始めたが、株価のピークは実際には2021年12月だった。
今回はどうか。前回の記事に書いておいたように、全部で31兆ドル存在する米国債の価格が利上げによって大きく下落しているのだから、数千億ドルや数兆ドル規模の損失はアメリカ経済に去年からずっと存在しているのであって、数百億ドルのキャッシュフローが尽きて死んだシリコンバレー銀行など氷山の一角に過ぎないし、今更そんなことはニュースでも何でもない。
だが大半の投資家にはそれが分からない。そして「大銀行の破綻」という分かりやすいニュースが流れるまで、彼らは根拠なく余裕をかまし続ける。
過去のすべての下落相場がこのように進行した。ユーロ危機におけるアイルランド破綻、リーマンショックにおけるベアスターンズ破綻、それが今回におけるシリコンバレー銀行である。
だから市場の短期タイミングを当てることは、シリコンバレー銀行破綻のようなイベントがいつ起こるかを厳密に当てることに他ならない。だがそれは不可能であり、しかもそんなことを当てる必要はない。淡々とそれまでのシナリオに賭け続けるだけである。
だがそれが理解出来ない人だけが、例えば買ったポジションが次の日にすぐ上がるかどうか、次の週にどうなっているのかにこだわり、そして金を失ってゆく。以下の記事を熟読してはどうか。
投資家は大きな流れを正確に予想し、短期的な動きに振り回されずにそこに集中すれば勝てるのであり、それが出来ない人だけが利下げや利上げに振り回されて損を積み上げるだろう。
そして2022年から持続している2023年のシナリオは、利上げによる世界経済のハードランディングである。現金給付が引き起こしたインフレの退治とはそういうものだとずっと言っているではないか。今更何を言っているのか。